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2023年12月2日 放送
2023年12月2日
山口県のほぼ中央部に位置する、日本最大級の石灰岩の台地「秋吉台」と、日本屈指の大鍾乳洞「秋芳洞」についてです。2023年11月に訪れる機会がありました。秋吉台は、一面に草原が広がり、多くの灰色の石灰岩が転がる不思議な光景でした。美祢(みね)市立秋吉台科学博物館によりますと、秋吉台の石灰岩は約3億年前の海で作られ、約1億年という長い年月をかけて1万キロ程のはるか遠くから運ばれてきました。石灰岩は世界各地で見られ、陸地表面の約1割を占めているといわれています。その多くは元々、その場所が暖かくて浅い海だったことが一般的です。一方、秋吉台を含む日本国内の多くの石灰岩は、大陸から遠く離れた暖かい海の真ん中で海底火山が噴火し、その頂上付近に生息したサンゴなどが元となっています。それらは地球の表面を覆うプレートの動きによって大陸まで移動し、その底にうまくくっつきました。更に国内でも秋吉台の石灰岩だけは、サンゴなどが約1億年間分も連続的に積み重なってできているとのことです。
その地下に広がる「秋芳洞」は、長さ約9キロ、空間の広さでは日本最大の洞窟です。見どころの一つが何枚もお皿を並べたように見える「百枚皿」と呼ばれる地点です。ライトアップされた白い階段状の石灰岩は、客席のようにも見え、まるでコンサートホールです。解説によりますと、実際の皿の枚数は約500枚。大きなものは直径3~4m、小さいものは10センチほどです。前方正面の小高い所から流れ落ちる地下水の中には、秋吉台の石灰岩の成分が溶け込んでいます。その石灰分が少しずつ岩肌に沈着し、縁の部分を盛り上げ、水を張った皿のようになった、ということです。
プレートは地球内部で対流しているマントルの上にあるので、マントルの対流で少しずつ動いています。プレートの境界付近には強い力がかかっている為、その力によって地震が発生します。プレートの動きは地震と深く関わっていますが、「秋吉台・秋芳洞」は、その地球の活動がもたらした景観を体感できる場所なのです。
2023年11月25日 放送
2023年11月25日
2023年11月20日午前6時1分頃、東北地方で最大震度4を観測するやや強い地震がありました。この地震による津波はありませんでした。震源地は青森県東方沖、震源の深さは約50キロ、地震の規模を表すマグニチュードは5.8と推定されます。震度4を観測したのは八戸市、野辺地町等、青森県の5つの市と町でした。県内の市町村の最大震度は3で、盛岡市、久慈市、二戸市、八幡平市、軽米町でした。私は自宅におりましたが、ガタガタと30秒ほど横揺れが続き、随分、長く感じられました。ただ1か2ぐらいで、震度3の揺れとは思いませんでした。
実は盛岡市には4つの震度観測点があります。「山王町」にある盛岡地方気象台の他、「渋民」は県、「馬場町」「藪川」は防災科学技術研究所が設置したものです。この日の地震は、盛岡市藪川が「震度3」、山王町と渋民が「震度2」、馬場町が「震度1」でした。市町村としては震度3と発表されたものの、同じ市内でも地形や地盤によって揺れは異なるのです。
気象庁では、1884(明治 17)年以来、140年、震度観測を実施しています。観測開始以来、体感で行ってきましたが、1996(平成8)年4月から、全面的に震度計で行うこととし、体感による観測は廃止しました。地方公共団体では、総務省消防庁が阪神・淡路大震災を契機とし「震度計の配備による市区町村での初動対応の迅速化」を目的に、原則「平成の大合併前の旧市区町村1観測点」で震度計を整備しています。この他、防災科学技術研究所でも、学術研究用として整備した観測網を用いて震度観測を行っています。2018年3月22日現在、県内の震度観測点は80か所になります。
気象庁が発表する地震情報は、ラジオ・テレビ等で報道されると共に国や地方公共団体等の多くの防災機関で利用され、地震災害が発生した際の被害の推定や、迅速かつ適切な初動体制・広域応援体制の確立など、地震防災上不可欠なものとなっているのです。
2023年11月18日 放送
2023年11月18日
日本気象協会が2023年9月28日に発表した2024年春の花粉飛散予測によりますと、今年の夏の猛暑が影響し、岩手県のスギ花粉の飛散は例年よりも「多く」、前のシーズンよりも「非常に多い」と予想されています。環境省の資料によると、2019年の全国調査では、スギ花粉症を患う人の割合は38.8%で、21年前の2倍に増えています。国民のおよそ3人に1人がスギ花粉症と推定され「国民病」となっているのです。
さて皆さんは「スギ花粉米」をご存じでしょうか。2023年10月27日、政府は近く取りまとめる新たな経済対策に、摂取すると花粉によるアレルギー症状の緩和が期待できるコメ「スギ花粉米」の研究開発促進を盛り込む方針を固めました。政府関係者が明らかにしたもので、花粉米を粉末化して錠剤やカプセルに加工し、医薬品として活用することを想定しています。2024年度中に医療機関で臨床試験を始める考えで、10年以内の実用化を目指します。「スギ花粉米」は、農林水産省が2000年度から開発を進めています。簡単にいうと、スギ花粉症の原因物質となるタンパク質の一部の遺伝子を組み込んだイネを栽培して作られます。マウスにこのお米を食べさせる実験を行った結果、普通のお米を食べさせているマウスよりも、花粉症を引き起こす抗体を70%減らす効果があることが確かめられています。花粉が飛び始める前に、花粉米の有効成分を含んだ錠剤を一定期間服用して徐々に体を慣らすことで、アレルギー症状の緩和が期待できます。今後は製薬会社と連携した開発も視野に入れている、ということです。
花粉症シーズンは、症状を緩和する為に、内服薬を飲む方も多いと思います。しかし毎年飲み続ける必要があり、又、薬を飲むと眠くなったり、集中力が低下したりすることがあります。スギ花粉米の研究開発促進は、患者にとって朗報ですが、安全性を確認した上での、実用化が待たれます。
2023年11月11日 放送
2023年11月11日
県内では雪が降ったり、夜間に気温が低下したりして、路面が凍結しやすい時期が近づいてきました。岩手県道路防災情報連絡協議会が、早めの冬タイヤ装着を呼びかけるリーフレットによりますと、過去5年で最も早く観測された主な峠の初雪日は早い順に「国道281号平庭峠」が11月2日、「東北道竜ケ森付近」「秋田道湯田付近」が11月3日、「国道455号早坂峠」が11月4日、「八戸道二戸付近」11月8日、「国道4号中山峠」「国道46号仙岩峠」が11月9日、「東北道北上付近」「国道107号秋田県境」11月10日、「国道106号区界峠」「釜石道花巻付近」11月19日、「国道283号仙人峠」11月24日、「国道45号三陸峠」12月2日となっています。
積雪・凍結路を運転する際、注意するポイントが大きく6つあります。日本自動車タイヤ協会によりますと、1つ目は「交差点」。タイヤでアイスバーンが磨かれて、ツルツルになっていることが多い危険な場所です。2つ目は「カーブ」。遠心力で車は外へ外へと流れやすくなります。対向車にも気を付けましょう。3つ目は「トンネルの出入り口」。特に高齢者は暗いところに目が慣れるのに時間がかかります。路面状況の変化を予測した運転が必要になります。4つ目は「坂道」。下り坂は止まりにくいので、充分に減速すると共に、上り坂は、発進時のアクセル操作を慎重にしましょう。5つ目は「橋の上」。吹きさらしの路面は、凍結している可能性があります。橋はアイスバーンと心得て通過しましょう。そして6つ目は「日陰」です。氷がいつまでも溶けずに残っている可能性があります。
気象庁によりますと、東北地方の1月までの3か月予報では、冬型の気圧配置が弱く、寒気の影響を受けにくい為、気温は平年並みか高く、日本海側の降雪量は平年並みか少ない見込みです。しかし一時的に寒気の影響を受けることもあり、油断できません。
雪が積もっておらず、黒く濡れたように見えても、実は凍っている「ブラックアイスバーン」と呼ばれる路面状態もあります。暖冬予想でも気を緩めず、引き続き安全運転を心がけましょう。
2023年11月4日 放送
2023年11月4日
災害時のペットとの避難には、「同行避難」と「同伴避難」があります。内閣府の避難所運営ガイドラインによりますと、「同行避難」はペットと共に安全な場所まで避難する行為。それに対して「同伴避難」は避難者が避難所でペットを管理する状態のことです。盛岡市のホームページでは同伴避難について「避難所又はその近隣に飼育場所を確保した上で受け入れることとしております。ただし、避難所においては動物が苦手な方やアレルギーのある方などへの配慮が必要ですので、状況に応じてペットの取り扱い方法を判断することになります。また、現在ペットのための備蓄品を備えておりませんので、避難の際にはペットフードやリード等をお持ちいただくようお願いします」とのことでした。
災害時、自宅以外で暮らすことになった場合の知識をまとめた手拭いがあります。滝沢市大釜にある有限会社「クワン」が制作、販売している「防災拭い」です。「地震編」「豪雨編」等のシリーズがあり、その内「愛犬・愛猫をまもる編」には災害時、ペットを守るための具体的方法について、イラスト付きで印刷されています。例えば、日頃から「ペットの受け入れが可能なひなん場所かどうか」「万が一のとき預かってくれるところ」等、確認事項として挙げています。又、様々な状況に慣れておく方法として「キャリーバッグやケージでお留守番」「いろいろな種類のペットフード」の備え、といったことを勧めています。そして、もしもの時にペットを守る手段として「ケージをガムテープで補強する」「大型犬はくつ下をはかせる」「怯えているときはタオルなどでくるむ」といった工夫を示しています。手触りが良く、軽い防災拭いは、縦34センチ横幅100センチ。一般的な手拭いより10センチ長い大きさで、応急処置の「三角巾」代わりにもなり、便利に使えます。
「クワン」では『ペットと安全に避難するために、常日頃から出来る備えをまとめたい気持ちで、震災をきっかけにペットの防災活動に取り組む、犬の訓練士・梶山永江(かじやまひさえ)さんの協力を得て、製作に至りました』『大切な家族であるペットと暮らす皆さんのお役に立てればと思います』と話しています。
2023年10月28日 放送
2023年10月28日
県によりますと、宮古市で、東日本大震災により亡くなった方は475人。未だ94人が行方不明のままです。その宮古市には、震災を伝えつつ、多くの世代の、様々な人が楽しめる公園があります。津波で浸水した宮古市新川町(しんかわちょう)の旧市役所跡地に2021年8月にオープンした「うみどり公園」です。大型複合遊具の他、障がいの有無に関係なく、全ての子どもが遊べる「インクルーシブ遊具」が設置されています。着座タイプの「回転遊具」は座りやすいようにくぼんだ形で、幼児や体を支えることが困難な人でも安全に利用することができる等、工夫されています。又若者から高齢者まで、ストレッチや筋力トレーニングに使用できる「健康遊具」もあります。
公園の閉伊川に近い南側には4つの塔があります。東日本大震災に関する情報を記したモニュメントです。塔にはそれぞれ「記憶」「鎮魂」「伝承」「希望」の意味があります。「記憶の塔」の高さは2011ミリ。東日本大震災が発生した2011年を表しています。時計の針が示すのは、地震発生時刻の午後2時46分です。「鎮魂の塔」は高さが3.4m。震災時のこの場所の津波の浸水の高さを表しています。犠牲者への追悼の意味を込めて「鎮魂の鐘」を設置しています。「伝承の塔」は高さが4.4m。中央部分に震災の概要を記し、宮古市に関わる震災の情報や被害状況を知ることができます。「希望の塔」は高さが5.5m。震災から復興までの10年間の歩みを10個の点で表現し、交わる線は多くの支援や人々とのつながりを意味しています。上部のステンドガラスは宮古市の花「はまぎく」を表しています。花ことばは「友好」「逆境に立ち向かう」と、まさに宮古市を象徴する花です。
私が訪れた日は生憎の雨でしたが、天気が良い日は、多くの家族連れが訪れることと思います。公園の一角に置かれた、震災を伝えるモニュメント。塔に目を向けることで、震災を経験した世代から、震災を知らない世代へ、伝承する機会になると感じました。
2023年10月21日 放送
2023年10月21日
地球温暖化が進んでいても、北日本は暑い夏・冷夏、いずれも発生する可能性があります。2000年代以降は冷夏が発生していましたが、2010年以降は発生しておらず猛暑が頻発しています。なぜ近年、冷夏が発生していないのか。三重大学大学院・生物資源学研究科、気象・気候ダイナミクス研究室では、その理由の解明と、将来の冷夏発生の可能性について論考し、研究内容はアメリカ気象学会発行の学術雑誌に掲載されました。
研究によりますと、主な要因は上層がカムチャツカ半島付近、下層が北日本付近に中心を持つ、南北に傾斜した構造を持つ高気圧の発生であることがわかりました。この高気圧発生の背景です。いつもの年は北海道付近を西から東に流れる上空の偏西風が、近年大きく北に蛇行しています。蛇行の盛り上がった場所に、上空の高気圧が発生し停滞。上空の高気圧は下層に向かい南へ傾斜し、地上では日本付近に中心を持つ高気圧となり、2010年以降、毎年、猛暑をもたらしています。この高気圧は西の大陸の暑さと、東の冷たい海洋の東西の温度の差が大きい為に発達します。地面は熱せられるとすぐ温度が上がりますが、海洋はゆっくり上がります。地球温暖化による昇温速度は大陸の方が海洋よりも大きい為、東西の温度差は近年、拡大傾向にあります。このようなことから2010年頃に北半球規模の気候が急激に変化し、猛暑が連続して発生しているとのことです。
研究では、この気候変化が続く限り、北日本に再び冷夏が発生する可能性は低くなると共に、毎年のように猛暑が訪れると予想しています。担当した三重大学大学院 修士2年の天野未空(あまのみく)さんは宮城県の出身で「東北の美味しいお米が大好きで、生育・品質に影響する現象を調べたいと思い研究をはじめました」とのことです。研究結果について「高温対策に、より重きを置いた品種改良、或いは作付け品種の再考など、農業をはじめ様々な分野において温暖化適応策を考えるきっかけになれば」と、その利用を呼びかけています。
2023年10月14日 放送
2023年10月14日
盛岡市内丸、櫻山神社の神門の右脇に小さな石仏があります。浮き彫りの「おもかげ地蔵尊」です。案内板によると、江戸時代は南部家の江戸屋敷に祀られていました。7000人以上の犠牲者を出した安政の江戸大地震の時、江戸屋敷が全壊にしたにもかかわらず、地蔵様のお蔭で死者、けが人も少なかった、とのことです。
内閣府の資料によると、この安政江戸地震は安政2年10月2日(1855年11月11日)、午後10時頃に発生しました。震央は東京湾北部、地震の規模はマグニチュード7.0~7.2、震源の深さは40~50キロと考えられます。被害は都内を中心に埼玉、千葉、神奈川県に及びました。古文書に基づき推定すると、現在の千代田区丸の内、墨田区本所、江東区深川などが震度6以上の揺れとなりました。これら日比谷の入江を埋め立てた所や、墨田川洪水時に浸水する低地を17世紀中期以降に開発した所は軟弱な地盤で、地震の揺れが増幅されました。建物の倒壊や、江戸の30数か所から起こった火災により、丸の内、本所、深川などで7000人を超える死者数が確認され、実際はそれ以上に上ると考えられています。
安政江戸地震は今、心配されている首都直下地震の一つです。発災時は応急対策活動として広域応援部隊や医療チームの派遣、物資の輸送などが計画されています。住民には建物の耐震化や家具の固定、水・食糧などの備蓄の他、火災からの適切な避難、交通マヒに対する自動車利用の自粛、交通インフラの損傷による通勤困難を想定した備えなどが求められます。
岩手百科事典によると、盛岡藩の江戸屋敷は当時、桜田門と幸橋門の中間に上屋敷、鉄砲洲築地に中屋敷、麻布一本松に下屋敷の3邸を有していました。櫻山神社によると、おもかげ地蔵尊は上屋敷にあったそうですが、いつの頃からか盛岡に移転されました。現在は櫻山神社で参拝に来た人々を見守りながら、江戸の大地震の歴史を静かに伝えています。
2023年10月7日 放送
2023年10月7日
2023年9月下旬のある日、くしゃみと鼻水が止まらず、辛い思いをしました。目のかゆみも、熱もありません。翌朝、症状はピタリとやみました。異常な暑さが落ち着き、朝晩のひんやりとした空気は、秋の訪れを感じさせるようになり、その寒暖差が関係しているのかもしれません。
三重県健康管理事業センターによりますと、季節の変わり目に、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりなどアレルギー性鼻炎によく似た症状が出ることを「寒暖差アレルギー」といいます。「血管運動性鼻炎」と呼ばれる鼻炎の一種ですが、アレルギーの病気ではないとのこと。寒暖差アレルギーの原因は解明されていませんが、およそ7℃以上の気温差によって鼻の粘膜の自律神経のバランスが崩れ、症状が起こると考えられています。寒暖差アレルギーを防ぐには、温度差を少なくし、血流を良くすることが大切です。「なるべく温度差を小さくする」為に、衣服などで体温調節をする他、「血流をよくする」為に、マフラーやひざ掛けを利用して体を冷やさないようにすることが大切になります。
又寒暖差が大きいと、自律神経の働きが乱れ、体が疲れます。こちらは「寒暖差疲労」といいます。奈良県医師会によりますと、体は気温の変化に伴い、体温を一定に保つため自律神経を働かせて皮膚の血管を流れる血液量を調整したり、筋肉で熱を生み出したり、発汗して体温を下げたりします。気温差が大きいと自律神経が過剰に働き、大きなエネルギーを消耗して疲労が蓄積します。すると肩こりや頭痛、めまい、倦怠感、便秘、下痢、不眠などの様々な心身の不調をもたらします。
自律神経を整えるには、「散歩などの運動をする」「首・肩の筋肉をストレッチする」「身体を温める食べ物を多くとる」「38~41度の湯に首までつかり体の芯まで温め、自律神経の集まっている首を温めることが大切」になります。自律神経は耳の周りにも集中しているので、耳をつまんで前後に回すことも自律神経の働きを整えるのに有効です。
寒暖差が大きい時の「体調管理」は、つまり自律神経を整えることを意識する、ということになります。
2023年9月30日 放送
2023年9月30日
文部科学省と気象庁気象研究所は、近年頻発している異常気象に地球温暖化が与えた影響を研究しています。温暖化した気候状態と、温暖化しなかった気候状態のそれぞれにおいて、大量の計算結果を作り出して比較し、数値化するというものです。
2023年6月初めは梅雨前線が本州付近に停滞し、東日本・西日本の太平洋側で線状降水帯が相次いで発生し、167地点で24時間降水量が6月としての1位を更新する大雨となりました。6月末以降は、前線の活発な活動の影響で西日本を中心に各地で線状降水帯が発生し、西日本から北日本にかけての広い範囲で大雨となりました。今回の研究によると、地球温暖化により6月から7月上旬の日本全国の線状降水帯の総数が約1.5倍に増加していたと見積もられました。又、7月9日から10日に発生した九州北部の大雨については、地球温暖化がなかったと仮定した場合と比べて総雨量が約16%増加していたことが確認されました。一方7月下旬から8月上旬の記録的な高温についても計算しました。2023年に入って発生したエルニーニョ現象は日本に冷夏をもたらしやすいのですが、今回の高温は地球温暖化の影響があったことで気温が底上げされた、と示されました。
私達ができる温暖化対策は何でしょうか。温暖化の主な原因は二酸化炭素=CO2の増加です。CO2は家庭からも出ています。全国地球温暖化防止活動推進センターによりますと、その割合は「電気」からが一番多く47%、次いで「ガソリン」からが23%(21JCCA)です。電気とガソリンが7割を占めていて、要するに家庭からのCO2を減らすには「電気、ガソリンの使用を減らすのが効果的」ということになります。ちなみに天井の明かりを点けていても、多くの家庭でCO2が出ています。日本の発電電力量の72%は石油や石炭、天然ガスを燃やして蒸気を作りタービンを回す「火力発電」によるものだからです。言い換えると、煙突の無い家からも煙が出ていることになります。省エネや節電を心掛ける私達の行動は微力ですが、無力ではありません。
2023年9月23日 放送
2023年9月23日
今年は関東大震災から100年となります。震災の混乱の中、「朝鮮人が暴動を起こす」などの流言、つまり根拠のないうわさが流れ、朝鮮半島出身者らが虐殺されました。2023年9月17日、内閣府が主催する防災イベント「ぼうさいこくたい」の講演で、立命館大学の北原糸子客員研究員は「一番気を付けるべき問題は流言だ。100年前とは全く違うメディアの展開で一人一人が気を付けないとネットを通じ広く拡散してしまう」と注意を呼びかけました。
災害時には、安否や被害状況を確認、共有する為に「情報」が大きな役割を担います。しかし2016年4月の熊本地震では「動物園からライオンが逃げ出した」また新型コロナ関連では「ウィルスは熱に弱い」「トイレットペーパーが不足する」という誤った情報が拡散されました。背景にあるのが「思い込み」です。SNSでは「同じ意見を持つ人」が集まりやすく、異なる見識が見えにくい為、同じ意見だけを繰り返し目にすることで「みんながそう言っている」という先入観が生まれやすいのです。情報の信頼性を確かめる為には、何に気を付ければ良いのでしょうか。
「LINEみらい財団」と「静岡大学教育学部」は、「情報防災訓練」のゲーム形式の教材をネット上で公開しています。台風が近づく中、スマホで情報を集めるという設定で、カードをめくり情報を読み、拡散しても良いかを判断するというものです。キーワードは「だいふく」。「だ:誰が言ったのか」「い:いつ言ったのか」「ふく:複数の情報を確かめたのか」を基準に考えます。例えば『市役所の公式の避難情報』は信頼性が高いといえます。『スーパーの食品が売り切れていた』という情報は、不確かで拡散するとお店に迷惑をかけてしまうかもしれません。『大学の先生が、有害物質が川に流れたと言っていた』という友人から届いた情報は伝聞であり、複数の情報を確認することが必要です。『午前11時50分、川が氾濫』という情報。既に午後7時を過ぎていて、誤った情報になる可能性があります。SNSで情報を集め発信することは、地域防災に貢献できる可能性があります。拡散するかどうか「だいふく」の視点で判断することが大切になります。
2023年9月16日 放送
2023年9月16日
2023年8月27日、盛岡市内でゴミ拾いのイベントに参加しました。肴町から中の橋を渡り、中津川下流の歩道沿いを30分程、歩きました。草むらを覗き込むと、マスク・吸い殻・空き缶・飴の個包装袋等が捨てられていました。又ビルの陰には、錆びた傘・単三電池が転がっていました。目立たない所にこっそり捨てられているゴミの多さに驚きました。このイベントは、海の環境保全に取り組む「海と日本プロジェクト」の一環で実施されたものです。
なぜ海の環境保全なのに、まち中でゴミを拾うのか。実は私たちが暮らす町で発生したゴミが、海洋ゴミの8割を占めているといわれているからです。町に捨てられたペットボトルや空き缶などが、川や水路を伝って日本の海に流れ着きます。海はつながっているので、世界中に広がっていきます。海洋ゴミの問題は、日本だけではなく世界中の問題なのです。
海洋ゴミにはペットボトルやレジ袋といった日常的に使う物が多く含まれています。中でも、世界的に問題視されているのが、一度海に流れてしまうと半永久的に分解されることのないプラスチックごみです。環境省の資料によりますと、海を漂流・漂着するプラスチックごみは、時間が経つにつれ壊れて細かくなり、次第に5ミリ以下のマイクロプラスチックになります。細かくなってもプラスチックであることに変わりはありません。マイクロプラスチックは、漂流の過程で化学汚染物質が表面に吸着し海洋生態系へ取り込まれる原因になる可能性があります。又実験室レベルでは誤って食べて海洋生物の体内に取り込まれることにより、海洋生物が害を受け、炎症反応、摂食障害などにつながる場合があることがわかっています。
2016年にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会で、毎年少なくとも年間800万トン分のプラスチックごみが海に流出し、このまま何の対策もとらなければ、海洋に漂うプラスチックごみの重量は、2050年には魚の重量を上回ると警鐘を鳴らしました。世界全体で取り組まなければならない地球規模の課題。一人一人のごみを減らす意識や行動が、海の未来を守ることに繋がります。
2023年9月9日 放送
2023年9月9日
気象庁は2023年6月から8月の平均気温が1898年以降で最も高かったと発表しました。特に北日本で高く、夏の平均気温の平年差はプラス3度でした。北日本を中心に暖かい空気に覆われやすく、また南から暖かい空気が流れ込みやすい夏でした。3度というと大したことがないと思われるかもしれませんが、平熱36度5分の方が、39度5分になるような状況で、異常な暑さということが実感できると思います。
盛岡の30度以上の真夏日日数は、7月22日の梅雨明け以降、9月1日まで42日連続で、1994年の38日の最長記録を更新しました。35度以上の猛暑日は平年ですと0.9日ですが、この夏は5日。1日の最低気温が25度以上の熱帯夜は平年ですと0.2日ですが11日もありました。日中はうだるような暑さ、夜間も気温が下がらず寝苦しい日々が続きました。
暖かい空気に覆われやすかった要因は太平洋高気圧の日本付近への張り出しです。下層で強まったことに加え、上空を西から東へ流れる偏西風も北に偏って蛇行し、上層の暖かい高気圧も強化されました。北日本の記録的な高温は、周辺海域での海水温の顕著な高温状態が影響した可能性もあります。三陸沖では 2022 年秋以降、海面水温が平年よりかなり高い状態が続いています。気象庁の海洋気象観測船が7月に行った海洋内部の観測では、平年より約 10度も高い水温を確認するなど、記録的な高温となっていました。三陸沖の高い水温は、2023 年4月以降に顕著になった黒潮北上の影響と考えられます。日本の南岸に沿って流れる黒潮は、房総半島沖に達した後、例年は本州から離れるように東向きに流れます。しかし2023 年7月下旬には黒潮が三陸沖まで北上していました。
2023年のような夏が毎年現れる、ということではありませんが、気象庁の検討会が猛暑の要因に「温暖化の影響」も挙げているように、今後、同様の状況が増加すると予測されます。猛暑で懸念されることの一つが熱中症による健康被害です。冷房の効いた公共施設等を無料開放する「クーリングシェルター」の利用が全国的に進んでいますが、岩手でも取り組みの広がりが求められます。
2023年9月2日 放送
2023年9月2日
天気に関する「ことわざ」が当たるかどうか、よく聞かれます。天気は昔から農業や漁業など人々にとって欠かせないものです。現代のような予報が無い時代から、先人達は空や自然の様子などを見て天気を予想してきました。今回は、いくつかピックアップし解説します。
「夕焼けは晴れ」。世界中にあり、最も古いお天気ことわざといわれています。しかし、夕焼けでも翌日晴れになるとは限りません。実は夕焼けには2種類あります。空が焼ける場合と、雲が焼ける場合です。空が焼けるように見える夕焼けは、西側の広い範囲に雲がありません。日本の上空には西から東に吹く風が流れ、西から天気が変わることが多いので、西に雨を降らせる雲が無い、という事から翌日は青空が期待できるでしょう。ところが雲が焼けるように見える場合は、西側に天気を崩す雲が控えているということで下り坂になります。
「猫が顔を洗うと雨が降る」。雨が近いと猫は体の特定部分から脂肪分を出し毛に塗り雨粒をはじくようにする、という説があるようですが、残念ながら当てになりません。我が家で飼っている猫は天気に関係なくやっています。野良猫なら当てはまるのでしょうか。
天気を予想する山が各地にあります。雫石町と矢巾町の境には標高848mの南昌山があります。盛岡でよく耳にするのは「南昌山に雲がかかれば雨」。天気を崩す雨雲は高度が大体2000m以下で、そのような雲が山頂付近にかかり始めると天気は下り坂になります。盛岡では「岩手山に3回雪が降れば里にも降る」も聞きます。必ず3回ではなく、経験的な目安でしょう。尚平年値は岩手山の初冠雪が10月6日、盛岡の初雪は11月16日です。
現代のことわざには「飛行機雲が長いと天気が悪くなる」があります。飛行機雲は、飛行機から出た水蒸気を含んだガスが一気に冷やされてできます。空気が湿っていると、いつまでも飛行機雲が残ります。つまり上の方に湿った空気が入ってきている、という事で、天気が悪くなる予兆ということになります。
今後の天気がどうなるか、空を見上げ、自然を観察すると、色々な発見がありそうです。
2023年8月26日 放送
2023年8月26日
2023年8月12日。大槌町付近では午前7時10分までの1時間におよそ100mmの猛烈な雨が降ったとみられ、気象庁は記録的短時間大雨情報を発表しました。その後7時50分、盛岡地方気象台は内陸で、積乱雲が停滞し集中豪雨をもたらす「線状降水帯」が発生したとして岩手県に初めて「顕著な大雨に関する気象情報」を発表しました。12日の雨量は大槌町161ミリ、久慈市下戸鎖151ミリ、遠野市附馬牛126ミリ、花巻市大迫119.5ミリを観測しました。この日、小笠原近海を北西に進む非常に強い勢力の台風7号が送り込む暖かく湿った空気の影響で、発達した雨雲が太平洋から県内に流れ込みました。又上空に寒気を伴った小さな低気圧が三陸沖に発生。高気圧の縁(へり)を周って陸地を通り日本海北部に抜ける珍しい動きをしました。これら複合的な要因で、短時間にまとまった雨が降ったとみられます。
豪雨はこの後も降り続きました。15日にかけて、沿岸北部では局地的に猛烈な雨が降り、12日の降り始めからの雨量は岩泉町小本673.5ミリ、久慈市下戸鎖531ミリ、普代327.5ミリに達しました。岩泉町小本では13日午後8時までの1時間に123.5ミリの雨を記録。小本では4日間で年間降水量の4割以上の雨が降ったことになります。日本の東海上から東北北部太平洋側にかけて伸びる前線があり、その前線に向かって台風7号から非常に暖かく湿った空気が流れ込みました。13日夜は上空の気圧の谷が通過し、東寄りの風が吹きつける形になった沿岸北部では、ごく狭い範囲で猛烈な雨が降り続きました。
線状降水帯は予測が難しい現象です。気象庁では線状降水帯による大雨が予想された場合、半日程度前から呼びかけを行っております。2023年の実績は、8月4日迄の時点で発生の「的中率」が5割、「見逃し率」が約6割でした。今回、気象台は大雨への警戒は呼びかけていましたが、これ程の雨量は想定しておらず、線状降水帯の半日前の呼びかけもありませんでした。予想を上回る気象現象。大雨の情報が出されてから備えるのではなく、自分の住むエリアに出されたらどう行動するか、改めて想定することが大切です。
2023年8月19日 放送
2023年8月19日
皆さんのお宅は、浸水想定区域ではありませんか。自宅は大丈夫だとしても、離れた所で暮らしている高齢家族の住まいが浸水想定区域、ということはありませんか。
平成30年7月の西日本豪雨など水害による犠牲者は、在宅の高齢者の逃げ遅れによる割合が多いと指摘されています。総務省東北管区行政評価局と、東北大学災害科学国際研究所 佐藤翔輔(しょうすけ)准教授は、東北地方の、岩木川、雄物川及び最上川の3河川の、洪水浸水想定区域の住民を対象に、水害に関する意識調査を実施しました。
回答者1052人のうち、約1割の人は「浸水する区域ではない」と危険性を認識しておらず、6割の人は「危険性は理解しているが詳しくは分からない」と回答。つまり住民の7割が水害のリスクを十分に認識していないことが分かりました。「浸水の危険性を十分理解している」と回答した人は3割にとどまりました。青森県弘前市、山形県村山市では「浸水の危険性を十分理解している」と回答した人は2割前後にとどまり、「浸水する区域ではない」と回答した人が1割と全体の平均を上回りました。水害経験の違いが背景にあることが推測されます。「どちらかというと避難すると思う」人が避難を開始しようと思うきっかけは、「『避難指示』の発令」が5割、「警察や消防・消防団からの呼び掛け」が4割と高いものの、回答者の多くが高齢者であり、避難の準備や移動に時間を要することが予想されます。又少数ですが、浸水など「自宅に何らかの被害が生じたら」とする回答もあり、逃げ遅れの発生が懸念されます。
国土交通省では、離れた場所に暮らす高齢者等に危険が差し迫った場合、家族が直接電話をかけて避難行動を呼びかける「逃げなきゃコール」というキャンペーンを行っています。防災情報を受け取る各種アプリをダウンロード。大切な人が住む地域で水害等の危険が差し迫った場合、電話して避難するよう連絡するものです。詳細は「逃げなきゃコール」で検索すると確認することができます。あなたの「逃げて」が命を救います。
2023年8月12日 放送
2023年8月12日
2023年6月23日、港区虎ノ門にある気象庁2階「気象科学館」を見学しました。2020年、気象庁が千代田区大手町から移転したのをきっかけにリニューアルオープンしたものです。こちらには気象や地震の観測機器や、日本の自然を体感できるシアター、防災知識について学べる装置などを揃えています。
新たに設置されたのが新人予報官になりきりクイズに挑戦する「ウェザーミッション」で、台風等の備えについて学べます。青い大型スクリーンには例えば「高潮警報の『高潮』とはどのような災害でしょうか?」という設問の後「1.海水の塩分が高くなり魚に被害を与える災害 2.雨で川の水があふれ、家などが水につかる災害 3.雨で道路に水があふれ、家などが水につかる災害 4.海面が盛り上がり、高い波と共に海岸へ押し寄せる災害」の4択が示されます。答えは4番で「低気圧である台風には海面を吸い上げる力があり、高潮によって海水が盛り上がったところに高い波があると、普段は波が来ないようなところまで波が押し寄せ被害を与える恐れがあります。また高い波の危険を呼びかける警報を波浪警報と呼びます」と表示されます。クイズ形式で高潮の仕組みを理解し、住民避難の為、早めに警報を発表する必要性を学習します。
「津波シミュレーター」は、「風により起こる普通の波=波浪」と、「津波」を模擬的に発生させることができ、映像も交えながら津波の仕組みについて知ることができます。幅が8m程の横長の水槽には水が3分の1程入っていて、水槽の中心には表面、真ん中、底と3つの浮きを設置しています。水槽の右端には砂浜、ビルや住宅といった陸地の模型があり水から顔を出しています。左から右に動く水の塊の内、「波浪」では周期の短い波が防潮堤にぶつかり勢いよく砕け、その先の建物まで達することはなく海に戻っていきます。浮きを見ると、表面だけ水が動いていることが分かります。ところが「津波」の周期は長く、防潮堤にぶつかった後も、陸を駆け上がり建物に達します。浮きを見ると、海底から水面まで全ての水が動いていて、同じ波でも波浪と津波では性質が全く違うことが分かります。気象科学館の開館時間は午前9時から午後8時迄、入場無料で、予約不要で自由に入れます。
2023年8月5日 放送
2023年8月5日
2023年6月15日、仙台市宮城野区にある「日和山」を登りました。仙台港の南側、蒲生干潟に面した蒲生地区にあります。流木でできた緩やかな階段をわずか6段進むと山頂です。標高はたった3m、日本一低い山なのです。仙台市高砂市民センターによりますと、元々、海の日和を見る為に築山された人工の山で、震災前は標高6m。1991年、国土地理院の地形図に掲載され、日本で最も低い山になりました。ところが1996年7月、大阪港区の天保山が標高4.5mで地形図に掲載されると、日和山は日本で2番目に低い山になりました。そして2011年3月11日。東日本大震災の津波で、山が削られてしまいました。2014年4月、国土地理院の調査で標高3mの山として確認され、再び地形図に掲載されることになり、日和山は18年ぶりに日本一低い山になったということです。
今回、日和山を案内して下さったのは、語り部活動を行っている「中野ふるさとYAMA学校」の佐藤政信さん(77)です。日和山が日本一に返り咲いたことについて聞くと「それは別として、津波に削られながらも残ってくれて良かった」と笑みを浮かべます。震災前、港町内会は86世帯が暮らしていました。正月は日和山に登って初日の出を拝み、それから高砂神社で初詣をするのが毎年の恒例でした。海までわずか600mの所にあり、海に魅せられ定住する人、サーフィンを好み移住する若い世帯も増えていたといいます。
しかし震災の津波が襲い、仙台市の死者・行方不明者は932名。3万34棟の建物が全壊し、佐藤さんの自宅も流されました。町内会役員の佐藤さんは、町内会では「災害時のマニュアルは作っていた」といいます。しかし地震が来たら集会所に集まり点呼を取り、中野小学校に避難する、というもので津波を想定したものではありませんでした。津波の歴史は知られていなく「石碑もなく」、津波の認識は薄かったそうです。被災者である佐藤さんは「自然災害を知りながら生活していきましょう」と勉強することの大切さを呼びかけます。着用する黄色いベストの背中に記されている「Iラブ日和山」。佐藤さんは、震災前も後も心の支えとなっている日和山の魅力と、震災の記憶をこれからも伝え続けます。
2023年7月29日 放送
2023年7月29日
2023年6月14日、宮城県の「石巻市震災遺構 大川小学校」を訪れました。2011年3月11日、高さ8.6mの津波は家や車や土砂、長面(ながつら)海岸の数万本の松の木を巻き込み、黒い壁となって北上川を遡りました。そして海から3.7キロ内陸に位置する学び舎を呑み込んだのです。地震から津波が到達するまで51分ありました。しかし避難開始の意思決定が遅く、かつ避難先を河川堤防付近にしたことから、校庭に留まり続けていた児童74人、教職員10人が犠牲になりました。4人の児童は行方不明のままです。
現地に足を運ぶと、震災の爪痕が色濃く残る、モダンな2階建ての円形校舎がありました。かつて体育館に通じる渡り廊下はガラス張りで、透明なトンネルで繋がっていました。その渡り廊下のコンクリートの根本は鉄筋がちぎれ、海側にねじり倒されています。2方向からやってきた津波が渦を巻き破壊したことが見てとれます。壁の無い教室からは、飛び交う鳥が巣くっているのか、賑やかな鳴き声が響いています。本来は子ども達の声が響く場かと思うと、一層、悲しみが増します。
同じ敷地内には2021年7月から公開されている「大川震災伝承館」があります。平屋の建物の中には、震災前後の航空写真や地域模型、実物資料を展示している他、パソコンで被災校舎の内部写真や裁判記録を閲覧できます。展示の中に「大川伝承の会」がまとめたファイルがありました。その中では「大川小以外にも、備えが不十分だった学校はあります。津波が到達しなかったので助かりましが、学校管理下での安全は『たまたま』で守るものではないはずです。求められているのは、津波が迫る中での判断ではなく、平時の備えです」と避難は勿論、事前防災の大切さを説いています。遺構のパネルにも同様の文言が刻まれています。「あの日のこと 今 そしてこれから」と題したメッセージには「当たり前のことですが どんな時も命を守る行動を優先することが必要です 今 この当たり前が非日常であるのなら 今日から日常に変えてほしいのです」。防災を日常のことにし、命を守ることを優先する。当たり前のことを続けていくことが、私達に問われています。
2023年7月22日 放送
2023年7月22日
2023年6月14日、福島県にある震災遺構・浪江町立請戸(うけど)小学校を訪れました。2021年10月から一般公開されているもので、2023年3月末までに約7万4000人が訪れています。東日本大震災では15.5mの津波が地区を襲い、海岸から300mにある校舎は2階の床上10センチまで浸水しました。当時校舎にいた児童83人と教職員は約2キロ離れた大平山(おおひらやま)まで歩いて避難し全員助かりました。
野原が一面に広がる海辺に近づくと、倒壊を免れた鉄筋コンクリート2階建ての建物がポツンとあります。1階の教室の壁は落ち、廊下との間の柱は赤茶色に錆び捻じれたままです。床面は公開にあたり片付けられていますが、唯一、職員室前の印刷室は当時のままの姿です。木や鉄骨、鉄板、椅子、機械の一部等、あらゆる物が押し込められたような状態で、乾燥し、ボロボロに崩れた壁材と一体となっています。見ていると胸が苦しくなりました。体育館のステージには横長の看板「卒業証書授与式」が頭上に掲げられ、被災直前の児童の歓声が聞こえてくるようでした。一方、木の床は地下で大蛇が這ったかのように大きくうねり、自然の脅威を静かに伝えています。
児童・教職員は助かった一方、請戸地区では154人が津波で命を落としました。2階フロアには当時を振り返る証言を記載したパネルがありました。中には「私は大きな津波は来ないと思いました。それは先人達より『請戸の浜は遠浅の海だから大きな津波は来ない』と伝えられていたからです」という人がいました。又避難を呼びかけた職員は「どうせ津波は来ないから、俺は居るから、そんなことやらなくてもいいぞ」と道路沿いに立っていた方がいた、と振り返っていました。災害を正しく伝承する難しさを感じます。
見学コースは次のパネルで締めくくられています「地震やその他の災害はいつ、あなたのもとにふりかかるか、わかりません。『あなたにとっての大平山はどこですか』」。津波から命を守る為にはどうすれば良いのか考えると同時に、逃げられたのに逃げない人がいたのは何故かも、1人1人が考える必要があります。
2023年7月15日 放送
2023年7月15日
東日本大震災と原発事故で大きな影響を受けた福島県浪江町には、移住した若者達が2018年に立ち上げた任意団体「なみとも」があります。「町の人と共にここで楽しく暮らそう」「友達の輪を広げよう」をコンセプトに様々なイベントを企画し、町に人のつながりの場を提供しています。2023年6月14日、代表の小林奈保子さんにお会いしました。小林さんは1987年、田村市生まれ。夫が浪江町役場の職員という縁で2017年春、避難指示一部解除と共に移住しました。当時の人口は約200人。若者は、自分と役場職員ぐらいで「暮らしを楽しむ為には集まらないと何も始まらない」と団体を設立しました。当初は浪江のことを何も知らないので、浪江に戻ってきた高齢者とヨガ、英会話、お茶飲みや酒飲みで交流し「暮らしの土台づくり」を行いました。その後、企業や町の内外で活動する団体、支援者とも連携し、輪を広げてきました。町の課題の一つは「人材不足」。求人を出しても人が来ない他、近所に住民がいないので、回覧板が回せない状況です。しかし小林さんは「余所者だから、不便を感じず過ごせている。アイデアや話を聞いてくれ、自分にとっては住み心地が良いです」と目を輝かせます。
小林さんに“復興”という言葉について尋ねると「活動の中で『復興』という言葉を使ったことがありません。元の生活に戻ることが復興かどうか議論になってしまいます。課題に対して何をすべきか、言語化、可視化する。その繰り返しなので、活動の中で『復興』という言葉は使いません」と明快な答えが返ってきました。
浪江町は2026年度に、駅から商業施設までが一続きに繋がる中心市街地再生が完了する他、2030年度迄に、国の内外の研究員や職員数百人が参加する研究施設が整備される等、大きく変わろうとしています。
小林さんは「『浪江って若い人が住めるの?』と思っている人がいますが、知識をアップデートしてほしい。町はこれから物凄いスピードで変わっていきます。放射線、処理水の話はありますが、暮らしの話はありません。こちらから発信しないといけないし、関心のある人と接触したい」と、町への理解の広がりに意欲を燃やしていました。
2023年7月8日 放送
2023年7月8日
震災後、復興への歩みを確かめる為、福島県と宮城県に足を運んでいます。今回は福島県浪江町についてです。町の資料によりますと、2011年3月11日の東京電力福島第一原子力発電所の事故により、町全域の2万1000人を超える町民が避難対象になりました。そして2017年3月31日、一部地域で避難指示が解除。依然、面積の8割が帰還困難区域に指定されています。人口は2023年5月末現在、2059人と震災前の約1割に回復しました。
「元の生活になることが復興と思っていた」と現実とのギャップに落胆するのは、前の商工会長の原田雄一さん(74)です。2023年6月14日、避難先の二本松市で経営している「原田時計店」を訪ねました。原田さんは1925年から続く老舗の3代目で、震災当時、長女夫婦と共に店を切り盛りしていました。原発事故後は避難で各地を転々とし、浪江町からの避難者が多い二本松市に落ち着きました。商工会長として国や東京電力に賠償を求め、会員事業所の事業再開などに奔走。商工会長を引退した2017年11月、二本松市の復興公営住宅の近くに店を構え、現在はメガネや補聴器のアフターサービスを中心に行っています。長女夫婦は2018年4月、茨城県つくば市に店を開いた為、結局、浪江にあった店は二本松とつくばの二つに分かれた形です。
原田さんは当初、浪江の人たちと町外にコミュニティを作り「みんなでまとまって町に帰ること」を望んでいました。その計画書を作成し町に提出するものの、町の考えとの間にずれがあり、結局それは採用されませんでした。コミュニティが無くなった今の浪江で顧客を開拓するのは原田さんにとって難しく、浪江には帰る気持ちは「もうない」と寂しそうに語ります。又、浪江に保有する土地の固定資産税を納めていますが「町外に避難している町民には負担に見合った支援が無い」「土地を処分したいものの買い手も見つからない」と嘆きます。「こういう災害はまた起こるかもしれない。12年経って住民の9割が町外にいる。これは復興ではないと思う。復興行政を検証すべき」。原田さんは今後、地域を壊されるような災害があった場合、自分のような思いをしてほしくないと訴えています。
2023年7月1日 放送
2023年7月1日
2023年6月3日、岩手日報社の鹿糠利和記者と、菊池健生記者に、南極についてお聞きしました。鹿糠さんは2007年~2008年、第49次南極地域観測隊、菊池さんは2021年11月から2023年3月まで約500日、第63次南極地域観測隊に同行されました。菊池さんの取材内容は「南極探見500日 岩手日報特別報道記録集」として5月に発売されました。
菊池さんの南極での仕事は記者業務の他、除雪や建築、雪上車の整備など多岐に亘りました。越冬隊32人と極限の環境を生き抜く為には、専門外の作業も行う必要があります。最大瞬間風速37m、時速に直すと120キロの猛吹雪=ブリザードの中、ライフロープを伝っての移動では「命の危険を感じた」といい、体験談からその過酷さが分かります。
南極で一番印象に残ったのは「オーロラ」でした。「運良く激しいオーロラが出ると、ライトがなくても昭和基地全体が見渡せるぐらい明るくなります。カーテンのようになびくものや、頭上に振り込んでくるような動きをするものがあり、生き物のように感じました。北極圏の先住民族は、オーロラを精霊などに例えていたらしいが、実際、そう感じるのも納得します」と感慨深げでした。一方、鹿糠さんが一番、印象に残ったのは南極の湖に潜水した際の世界でした。「植物がほとんど無い南極で、水温3度の湖に潜ったら草原のような植物の大群落がありました。コケ類と藻類の集合体で、育つまで6千年かかっているとのこと。世界でまだ数人しか見たことがない光景を目にして、感動し、潜りながら『うわー』と叫んでしまった」と当時を思い出していました。
記録集では、菊池さんが泣いた日が「2日」と小さく記されています。これは観測隊の引継ぎの機会で「63次なので、62次隊・64次隊と入れ替わって活動しました。最後ヘリで見送る時、或いは見送られる時、ウルッと来ました」と極地での絆を感じました。
今回、菊池さんの取材をバックアップした鹿糠さんはリスナーに対し「南極は、岩手と空気も繋がっています。温室効果ガスや、ゴミ問題も繋がっています。日々の生活を見直す意味でも、本を通して南極に触れて頂き、岩手での暮らしを考えてもらいたい」と力を込めていました。
2023年6月24日 放送
2023年6月24日
2023年6月3日、共に南極地域観測隊に同行した岩手日報社の鹿糠利和記者と、菊池健生記者にお話しを聞く機会がありました。地球最南端の貴重な体験については次回、お伝えします。
厳しい自然環境ですが、大陸を取り囲む海には海藻や小魚など豊富なエサがあり、約280種の魚の他、ペンギン、アザラシ、クジラ、イルカも暮らしています。
南極には「極夜(きょくや)」と「白夜(びゃくや)」があります。極夜は一日中太陽が出てこない日、反対に白夜は一日中太陽が出ている日です。地球の回転軸が傾いている為に起こる現象で、極夜と白夜は、昭和基地では約45日間、南極点では約半年間、続きます。又南極では大気中の発光現象・オーロラが見られます。地球の大気と、太陽からやってくる電気を帯びた小さな粒子がぶつかり光ってできるもので、地上100〜200キロの高さに現れます。
南極は地球の健康度を測るバロメーターといわれています。文明から遠く離れ、人による環境汚染が最も少ない地域である為、わずかな影響でもすぐに現れるからです。厚い氷の中には、氷ができた際の空気が閉じこめられています。数十万年前の空気を取り出して成分を調べることで、大昔から現在までの気候の移り変わりが分かります。例えば、氷に閉じ込められた二酸化炭素を分析することで、今後の地球温暖化の対策や、将来の地球に与える影響を考えることができるのです。
2023年6月17日 放送
2023年6月17日
盛岡のオールドリスナーさんから質問を頂きました。ありがとうございます。
「先日、四国から東海地方の広い範囲で線状降水帯の発生により大きな被害がありましたが、北日本、特にも岩手県でも起き得るのでしょうか?盛岡市中心部で道路が冠水する程の大雨は記憶に無いのですが」。
2023年6月2日、台風2号や梅雨前線により、線状降水帯が四国から東海地方の広い範囲で発生し、記録的な大雨となりました。線状降水帯は、湿った空気の流入が持続することで次々と積乱雲が発生し、線状の降水域が数時間に亘って、ほぼ同じ場所に停滞するものです。強い雨の区域は、長さ50~300km程度、幅20~50km程度です。
線状降水帯というと西日本で発生という印象ですが、岩手でも発生したことがあります。2013年8月9日、岩手の県央部と秋田県は、これまでに経験したことのない記録的大雨に見舞われました。雫石町では1日で264ミリと8月1か月に降る雨量を上回りました。花巻市大迫では観測史上1位、1時間に63.5ミリという滝のような雨が降りました。大雨で怖いのは土砂災害と河川の増水で、県内では2人が犠牲になりました。花巻では90代の女性が、自宅裏山が崩れて家屋内に流入し亡くなりました。西和賀町では釣りをしていた60代の男性が川に流され命を落としました。又、盛岡市、雫石町、矢巾町、紫波町、花巻市などで、住まいの床上浸水や床下浸水、がけ崩れなどの土砂災害、道路の損壊や冠水が発生しました。気象庁気象研究所は、大雨の要因について「2つの線状降水帯が停滞することでもたらされ、それぞれの線状降水帯は風上にあたる奥羽山脈で積乱雲が繰り返し発生することで形成された」と分析しています。
豪雨災害から命を守る為に、改めて「ハザードマップや避難ルート」を確認しましょう。又、線状降水帯発生情報は「未明から早朝」という就寝時間帯に発表される傾向があり、早めの避難が大切になってきます。
2023年6月10日 放送
2023年6月10日
2023年6月4日、第73回全国植樹祭が、天皇皇后両陛下をお迎えして陸前高田市で開かれました。森林や緑に対する国民の理解を深めようと行われているもので、県内では旧松尾村、現在の八幡平市での開催以来49年ぶりです。岩手県の森林面積は約118万ヘクタールで県土の77%を占めています。
さて森林は木材の生産の他、私達の生活にどんな役割を果たしているのでしょうか。林野庁では「水を育む森林のはなし」として大きく3つ挙げています。1つ目は「水資源を溜める機能」です。森林土壌はスポンジに例えられます。急勾配な山地の森林に降った雨は、一旦土壌の隙間に蓄えられ、ゆっくり時間をかけて川へ送り出されます。例えば晴天が続いても渓流の水がすぐに枯れないのは、こうした機能によるものと考えられます。2つ目は特に中小規模の「洪水の緩和」です。森林土壌に浸透した雨は、様々な経路を辿りゆっくりと流れ出ていくことから、雨が降った際、川の水量のピークを低下させたり遅らせたりする働きがあります。3つ目は「水質の浄化」です。雨水が森林を通って土壌に染み込み、最後に渓流に流れ出るまでに、リンや窒素などの富栄養化の原因となる物質は、土壌中に保留されたり、植物に吸収されたりする一方、土壌中のミネラル成分等がバランス良く溶け出すことにより、森林は美味しい水を作り出すと考えられています。
続いて森林内に入り清浄な空気に身を置く、所謂「森林浴」の健康効果についてです。環境省の「データで見る国立公園の健康効果とは?」によりますと、免疫機能増強効果が森林浴前と比べて1日で27%、2日で53%上昇。都市よりも森林を眺めると、リラックス状態を示す副交感神経活動が1.5倍増加し、ストレスホルモンが13%減少した、とのことです。
今後も森林を維持していく為に、自然環境に配慮した製品を選んで購入したり、動物が破片でケガをしたり間違って食べたりしないようゴミを捨てない等、意識と行動が求められます。
2023年6月3日 放送
2023年6月3日
日本海溝・千島海溝沿いで発生が想定される巨大地震と津波に備えた政府の計画がまとまりました。これは2023年5月23日、政府の中央防災会議の幹事会で決定したものです。計画では、特に大きな被害が予想される岩手と青森、宮城の3県と北海道を対象に、生存率が急激に低下する災害発生72時間、3日以内に自衛官や警察官、消防士など最大15万人を派遣します。具体的には43都府県から最大で警察約1万7000人、消防約2万3000人、自衛隊約11万人を投入。人命救助や消火活動にあたるのは「被害が想定されない地域に所在する、警察災害派遣隊、緊急消防援助隊、国土交通省 TEC-FORCE 及び自衛隊の災害派遣部隊」です。派遣される人員の割合は被害規模の想定に応じて、北海道が7割、東北の3県が合わせて3割と設定されました。
また救援物資については、発生から3日間は家庭や自治体の備蓄で対応することを前提としていて、4日目から7日目までに食料や毛布、おむつなどを4道県に届けるとしています。
計画では「被害全容の把握を待つことなく、震度6弱以上が観測され、大津波警報の発表があった場合、災害応急対策活動を直ちに開始する」としています。陸路で被災地に向かう際、県内では広域に展開する拠点として、警察庁が西和賀町の秋田自動車道・錦秋湖SA下り線に、消防庁は八幡平市の東北自動車道、岩手山SA下り線、奥州市の前沢SA上り線、下り線に参集することになっています。
計画の中には「食料、飲料水、医療物資、燃料及び生活必需品を、被災地向けに全国からできる限り確保し、遅滞なく供給すると共に、これらの物資の買いだめ、買い急ぎを防止すること」とあります。災害が起きた際、被災地以外に暮らす住民は、物資供給の妨げにならないよう冷静な行動が求められます。
2023年5月27日 放送
2023年5月27日
夏になると日本列島は南から太平洋高気圧に覆われます。加えて、更に上空の高い所に、もう一つの高気圧があって大陸から日本付近に広がってきます。この高気圧を、チベット高気圧と言います。
気象庁は2023年5月23日に、6月から8月の3か月の天候の見通しを発表しました。2023年の夏はチベット高気圧の東への張り出しが強いことから、沖縄・奄美から東日本にかけて暖かい空気に覆われやすい為、東日本、西日本では高温傾向。沖縄・奄美で高温と予想されています。つまり猛暑です。北日本の気温は平年並みで夏らしい暑さ、又、全国の降水量もほぼ平年並みです。
気になるのは「エルニーニョ現象」です。夏までの間に80%の確率で発生すると予想されています。「エルニーニョ現象」は、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけての海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象です。世界中の異常な天候の要因になり得ると考えられています。エルニーニョ現象が発生すると、北日本の夏の平均気温は平年並みから低い傾向があります。3か月予報でも、日本の南で太平洋高気圧の西への張り出しがやや弱く、南から暖かく湿った空気が流れ込みやすい為、北日本・東日本・西日本では低気圧や前線の影響をやや受けやすい時期がある予想が出されています。
2000年代のエルニーニョ現象は、2002年夏から2002年・03年の冬にかけて、2009年夏から2010年春にかけて、2014年夏から2016年春にかけてと3回発生しています。この時、どんな夏だったのか、盛岡と宮古に関して調べました。3回共、平均気温はほぼ平年並み。2002年夏の降水量は平年の150%から160%と多く、日照は平年の8~9割。2009年夏の降水量は盛岡が平年並み、宮古は平年の9割、日照は盛岡・宮古で平年の8割前後。2014年の日照は平年並み、降水量は、盛岡は平年並み、宮古は140%でした。2000年代の岩手のデータでは、エルニーニョ現象発生の夏は、気温は平年並みですが、「日照不足」「多雨」という不順な夏もありました。
岩手で陽射しが降り注ぎ、夏らしい暑さが長続きするのかどうか、太平洋赤道域の海面水温がカギを握ります。
2023年5月20日 放送
2023年5月20日
今回は2023年5月5日に石川県の能登半島沖で起きたマグニチュード6.5の地震についてです。石川県珠洲市では最大震度6強を観測し、市内で65歳の男性がはしごから転落し死亡し、石川県と富山県で42人がけがをしました。石川県では住宅の全半壊が31棟に上りました。「震度6強」は、這わないと動くことができず飛ばされることもあり、東日本大震災の際、一関市、大船渡市等で観測した県内の「最大震度6弱」よりも大きな揺れでした。
今回の地震について研究者の多くは2020年12月頃から活発化した群発地震の一つと見ています。地下の水などが移動するのに連れて次々と発生するタイプです。2022年6月19日に珠洲市で震度6弱を観測した能登地方を震源とする地震のマグニチュードは5.4でした。今回の地震のエネルギーはその40~50倍になります。
政府の地震調査委員会は13日の記者会見で「地下5キロから10キロの断層が大きくずれて強い揺れをもたらした」と説明しました。観測されたデータの分析から、震源の断層は能登半島の地下から北側の海底に続くような形状としています。更に「海底には沢山の断層があり、水が浅い所に染み出して地震を起こしていると解釈できる」と指摘しました。しかし、付近の海底にある活断層と今回の震源断層とは一致せず「3次元的に見ると動いていない」という考えを示しました。また「地震の回数は減ってきたが、活発な状態が続いている」として警戒を呼びかけました。そして能登半島北側には活断層があり、地震の多発で活断層が刺激され動くことで、津波が起きる恐れもある、ということです。
今回の地震のけが人の中にはタンスの下敷きにより負傷した人もいます。岩手に住む私達も、大きな揺れが襲った際、室内で落ちてきたり倒れてきたりして、けがをするような物がないかどうか、改めて確認する等、住宅を安全に保つ必要があります。
2023年5月13日 放送
2023年5月13日
宮古原産のさだとしぞうさんから質問を頂きました。ありがとうございます。
「なんで震度って4以上は5強とか6強とかの区分なんですかね」。
気象庁の震度階級は、小数点第一位までを用いて表した「計測震度」と、整数のみを用いて表した「震度」があります。かつて震度は体感や周囲の状況から推定していましたが、1996年4月以降は「計測震度計」による観測に切り替えました。水平や上下の揺れの強さの程度を計算して数値化した計測震度から、震度に換算し速報するものです。震度6強、6弱、5強、5弱の区分は、1996年10月から適用されています。契機となったのが1995年1月17日に発生した「阪神・淡路大震災」です。各地の震度は神戸、兵庫県淡路島の洲本(すもと)で「震度6」、兵庫県豊岡、滋賀県彦根、京都で「震度5」でした。しかし現地調査を行ったところ、木造や鉄筋コンクリートの建物の倒壊・崩壊・傾斜、家具の移動・転倒、棚の食器や書籍類の落下など、同じ震度5、震度6でも被害の幅が大きいことが分かりました。そこで被害の様相を反映させる為、計測震度4.5以上5.0未満を「震度5弱」、5.0以上5.5未満を「震度5強」、5.5以上6.0未満を「震度6弱」、6.0以上6.5未満を「震度6強」と細分化することで、適切な防災対応ができると判断したものです。
尚、1995年当時の震度階級は、震度0から7までの8階級で、震度7については現地調査により決定するものとなっていました。その調査で、神戸市須磨区から西宮市・宝塚市にかけてと、淡路島の北部で震度7に達していることが分かりました。その後、気象庁はこのデータを元に、震度階級を改正し現在の震度6強、6弱、5強、5弱も加えた10階級にすると同時に、震度7についても計測震度計で速報できるようにしました。
2023年5月6日 放送
2023年5月6日
総務省消防庁によりますと、2022年5月1日から9月30日の間に岩手県内で熱中症により救急搬送された方は516人でした。その内、65歳以上の高齢者が330人と最も多く、全体の約64%を占めています。又発生場所は、炎天下の屋外を連想しますが、意外にも住居が251人と約49%、ほぼ半数を占めています。
厚生労働省等の資料によりますと、高齢者が特に注意が必要な理由は大きく3つあります。1つ目は「体内の水分が不足しがち」です。高齢者は若年者よりも体内の水分量が少ない上、体の老廃物を排出する際、沢山の尿を必要とするのです。2つ目は「暑さに対する感覚機能の低下」です。加齢により、暑さやのどの渇きに対する感覚が鈍くなります。3つ目は「暑さに対する体の調節機能の低下」です。高齢者は体に熱が溜まりやすく、暑い時には若年者よりも循環器系の負担が大きくなります。
日本気象協会の資料では、高齢者の室内での熱中症対策を5つ挙げています。1つ目は「気温や湿度を計る」です。今いる環境の危険度を知りましょう。2つ目は「室内を涼しくする」。日差しの無い屋内でも、高温多湿・無風の環境は熱中症の危険が高まります。冷房や除湿機・扇風機などを適度に利用し、涼しく風通しの良い環境で過ごしましょう。3つ目は「水分を計画的に摂る」。のどが渇く前に、定期的な水分補給をしましょう。キュウリやナスなど、水分を多く含む食材を食事に取り入れるのもお勧めです。4つ目は「お風呂や寝る時も注意」です。入浴時や就寝中にも体の水分は失われます。入浴前後に十分な水分補給をしたり、寝る時は枕元に飲み物を置いたりしておくとよいでしょう。5つ目は「周りの人が気にかける」。高齢者は自分で暑さやのどの渇きに気づきにくい上、体調の変化も我慢してしまうことがあります。周りの人が体調をこまめに気にかけ、予防対策を促しましょう。
2023年4月29日 放送
2023年4月29日
久慈市の記録によりますと、2011年3月11日の東日本大震災で、久慈市では震度5弱を観測。地震発生から約40分後、波の高さ8.6m、陸地を這い上がった高さが約27mの津波が襲い、漁港施設や漁船、沿岸の家屋や工場を一瞬にして呑み込みました。
2023年3月2日、久慈川河口に面した久慈湊保育園の岩山優子園長に、当時の様子や園の防災への取り組みについてお聞きしました。大地震のあった時間は昼寝の最中でした。パジャマ姿の0歳から5歳まで55人に上着を着せ、職員、近隣住民も合わせ約80人が避難しました。避難場所の金刀比羅神社には震災2日前の地震で避難していたこともあり、岩山さんは「泣き叫ぶ子どもがおらずスムーズに逃げることができました」と振り返ります。夕方、社務所から、地域住民の車に同乗し自家発電のある安全な場所に移動。夜9時頃には園児全員を家族に引き渡すことができました。翌日、園を確認すると、壁にひびが入っている所はありましたが、幸い津波の被害はなく、3日後には保育を再開することができました。
園では毎月1回の火災や防犯を含めた避難訓練の他、毎年5月に園庭を回るマラソン大会も、避難する為の体力作りと捉えています。又、園児には紙芝居やアニメを通して津波の怖さを伝えていますが、岩山園長は「冷静に対処する為、あまり不安を与えないように」配慮しています。
県が2022年3月に公表した最大クラスの津波の浸水想定によりますと、久慈市の浸水面積は13.1平方キロメートルで、東日本大震災の浸水面積4平方キロメートルの3倍以上と示されました。最大クラスの津波で懸念しているのは冬場の避難です。外に逃げる際、着替えをすぐに取り出せる場所に置く等、備えています。園では訓練を通して、津波避難の課題を解決していくことにしています。
2023年4月22日 放送
2023年4月22日
久慈市は県による最大クラスの洪水と津波浸水想定を受け、2023年3月、総合防災ハザードマップを5年ぶりに改訂しました。洪水・土砂災害と地震・津波の2種類の地図を拡大し、危険区域を分かりやすく表示しています。
今回は大雨災害発生を前提に、各世帯の避難行動を時系列で整理した計画「マイ・タイムライン」のページを新たに設けました。例えば久慈市役所周辺を例に見てみます。まずは「洪水」「土砂災害」のリスクをチェックすると「洪水浸水想定区域」ということがわかります。北は久慈川、南は長内川が流れる三角州にあり、2日間で704ミリから924ミリという1000年に一度レベルの大雨が降った場合、3m以上浸水すると想定されています。そして避難に支援を必要とする人やペットの有無、最寄りの指定避難所、避難手段は徒歩か車か、又、避難時間はどれぐらいか、記入する欄を設けています。警戒レベルに応じて、非常持ち出し品の確認から避難開始まで、どのタイミングでどう動くか、自分の取るべき行動について具体的に考えることができます。
新しいハザードマップは市内約1万5000戸に配布した他、市のホームページからもご覧になれます。市防災危機管理課の田中淳茂(あつしげ)課長は市民に対して「自然災害はいつ起こるかわかりません。普段からご家庭や職場などでハザードマップを活用し、ご自宅やお仕事先の災害リスクや避難経路の確認などを行い、有事の際、速やかに避難できるよう備えていただきたいと思います」と活用を呼び掛けています。
市は2023年5月には住民説明会を開催することにしています。このハザードマップを、いかに速やかな避難行動に結び付けるか。逃げ遅れのない防災行動の為には、避難が困難、又、避難訓練参加自体が困難な方も含めて、自治体、地域でサポートすることが大切になります。
2023年4月15日 放送
2023年4月15日
2023年4月13日の県内は、内陸に一時暴風警報が発表され、朝から昼過ぎにかけて風の強い状態が続きました。北上市本石町(ほんごくちょう)では13日午前10時頃、住宅の屋根がはがれる被害が発生しました。市内ではこの他にも消防に「屋根が飛ばされた」との通報が数件寄せられましたが、けが人はいませんでした。盛岡市神子田町の2階建ての集合住宅でも屋根がはがれる被害が確認されるなど、各地で強風の影響がありました。最大瞬間風速は紫波で27.1メートル、奥州市若柳で23.5メートル、盛岡と花巻で23.1メートルを観測しました。
春3月~5月は強風の季節です。1年を通して風速10m以上の日数は盛岡で平均16.3日あります。その内、春が最も多く8.5日、次いで冬が3.5日、秋が3.0日、夏が1.3日です。これは低気圧の発達が関係してきます。冬の間、冷たい北西の季節風を周期的に吹かせていたシベリア高気圧は、春になると勢力を弱め、代わって移動性高気圧や低気圧が、日本付近を交互に通過するようになります。その際、冬の冷たい空気と春の暖かい空気がぶつかり合い、低気圧が急速に発達し突風が吹きやすいのです。
この時期、気を付けたいのが山火事です。県によりますと2022年は30件の山火事が発生し、約8割が3月~5月に集中しています。又発生原因は焚火・野焼きによるものが約6割を占めています。2023年も4月3日午前、盛岡市の休耕地で草などを焼く火事があり、焼け跡から80代女性の遺体が見つかりました。現場は田畑の中に民家が点在していて、亡くなった女性は周辺でごみ焼きか野焼きをしていたとみられています。又、同じ日の午後、雫石町で田んぼ近くの林を焼く火事があり、焼け跡から性別不明の遺体が見つかりました。枯草や廃棄物を焼却する野焼きは原則禁止です。しかし農業、林業又は漁業を営む為にやむを得ない焼却や、日常の軽微なものは、消防署へ届け出ることで実施できます。野外での火の取り扱いには十分注意し、又、強風時や乾燥時には野焼きを控えましょう。
2023年4月8日 放送
2023年4月8日
2023年3月28日、京都府亀岡市で川下りの舟が座礁し、船頭2人が死亡しました。この事故について花巻のござ引きさんからメールを頂きました。「船が急流で弾んで、舵が水面上に出て空振りする『空舵(からかじ)』が起きて、船が航行不能になりました。船の構造を見直すなどのハードウエア、水量、波の状況をあらかじめ下見をして運行の可否を検討するソフトウエア、いろいろな対策があったと思います」。
さて岩手の観光事業者は、どんな安全対策を行っているのでしょうか。一関市東山町の景勝地・猊鼻渓を取材しました。北上川の支流・砂鉄川沿いにそびえる高さ50メートル以上の断崖絶壁が織り成す勇壮な景色を、舟の上から楽しむことができます。この事故を受け、猊鼻渓の舟下りを運営する「げいび観光センター」は、運航の安全対策や緩やかな川の特徴をホームページに掲載しました。「砂鉄川は、船頭さんが竿一本で往復出来るほど流れが緩やかで、急流箇所はなく、自然と船頭さんの案内をゆったりと楽しむタイプの舟下りです。船着き場付近の農業用の堰が、流れをせき止めており元々緩やかな砂鉄川の流れを更に緩やかにしています。運航するルートも、万が一川に落ちても足が川底につくような浅瀬を運航しています」としています。又、法律に基づき乗客1人ずつに座布団式の救命用具を配布し、船頭は紐を引いて膨らませるライフジャケットを身に着けています。舟の方向を決める、竿と呼ばれる木の棒を川底に押し付けることで、舟を操ります。折れたり流されたりした場合を想定して予備の竿も積んで運航しています。運航基準も明確に設けていて、基準となる場所の水位が35センチ以上となった場合か、風速が10メートル以上の場合は、運航中止となります。
新型コロナの影響で例年の半分以下にまで観光客が減った猊鼻渓舟下り。安全対策を徹底して、春の行楽シーズンを迎えています。
2023年4月1日 放送
2023年4月1日
最大クラスの津波対応について、今回は久慈市の住民の声です。2023年3月2日、湊上組町内会を訪れました。128世帯が暮らす家々は高さ8mの防潮堤に囲まれています。避難場所である金比羅神社までは歩いて10分程。赤い鳥居をくぐった後は、苔むした159段の急な階段が待ち受けます。境内まで上りましたが、普段、運動している私も息が切れ、高齢者等、災害弱者といわれる方がたどり着くのは難しいと実感しました。
区長の佐々木喜美雄さん(73)は「防潮堤が壊れてしまえば10数メートルの津波が来る。全滅になる」と危機感を募らせます。佐々木さんは12年前の東日本大震災の際、消防団として避難を呼びかけましたが、自宅から逃げない方もいました。そのお宅は幸い床下浸水で一命を取り留めましたが「年配の方が素直に応じてくれれば良いが。『私は残る』『どうせ死ぬなら家と一緒に死にたい』という方もいる」「車椅子利用者を親に持つ家族に『私達は構わなくてもいいですから』といわれている」と語り、12年前の避難と同じ状況になることを危惧しています。支援が必要な人は、自動車を使うことでスムーズに安全な場所に逃げることができます。町内会では車避難を含めた逃げる手段や、これからの取り組みについて議論を進めています。佐々木さんは「避難訓練はどこの地域も一括の考え。地域によって山の方もあれば海辺の方もある。地域にあった避難訓練をした方がよい。自主防災組織もあるから、訓練前に、自主防で机上訓練、机の上で訓練。やったことがないから、やった方が良いのではと思う」と、地域の実情にあった避難訓練を模索しています。
岩手県の地域防災計画では、避難手段は原則として「徒歩」としながらも「避難所までの距離や避難行動要支援者の存在など地域の実情に応じ、やむを得ず自動車により避難せざるを得ない場合においては、避難者が自動車で安全かつ確実に避難するための方策をあらかじめ検討する」としています。自然災害から命を守る為、どのように安全に避難するのか、地域と自治体との連携が鍵となります。