「思い出の品」返却事業の今 大槌町が初めて内陸で開催 大切な写真が見つかる一方で…/岩手
<ニュースエコー 2022年11月23日>
東日本大震災の津波で流され、持ち主が分からなくなった写真などのいわゆる「思い出の品」。岩手県大槌町がその返還会を初めて内陸部で行いました。
「見て、なんか写ってた。これ」「あー高校の時ね。恋愛してるころだな」
11月19日、大槌町は初めて花巻市で思い出の品の返還会を行いました。会場には震災発生から11年8か月が経過して、ようやく持ち主の元に写真が戻る場面がありました。
「(見つかったんですか?)見つかった。すごいね」
花巻市在住の菅原信也さんです。震災発生の前の年、家族でテーマパークに行った時の写真を見つけました。菅原さんには他にも探しているものがありました。
(菅原信也さん)
「母の写真が1枚しかないんですよね。それが遺影になっていますから」
菅原さんの母親は震災の津波で亡くなりました。以前も返還会に参加して母親の写真が戻ってきた経験があるといいます。
(菅原さん)
「また新たに見つかるかなと思ってね。私の家族以外にも例えば友人とか親戚とかあるかなと思ってきたんですけど」
およそ2時間かけてアルバムに目を凝らした菅原さん。その結果、探していた母親の写真に加えて、家族や親戚の写真46枚が見つかりました。

初の「内陸返還会」で多くの写真が戻る成果 しかし年々返却数は減少
大槌町は震災発生後、こうした思い出の品の返還会を定期的に行ってきましたが、このように持ち主の手元に戻る数は近年、大幅に減っているといいます。昨年度の思い出の品の受け渡しの数はゼロでした。年々、探しに来る人の数は減っている上に、コロナ禍で返還会の開催ができなかったことも追い打ちをかけているといいます。
そんな中での久しぶりの返還会、しかも初めての内陸部での開催は貴重な返却の機会になったようです。
もう一人、思い出の写真に巡り合えた人がいました。
「あ、ひとみ」
(職員)
「見つかったんですか!ちょっとお待ちくださいね」
花巻市に住む高田大輔さんです。娘の瞳さんが小学校に入学するときの写真を見つけました。
(高田大輔さん)
「6歳なので、今から15年くらい前じゃないですかね。今21歳なので」
花巻市内での開催を知り、初めて返還会に足を運んだという高田さん。数少ない娘の思い出の写真に、目を細めていました。
(高田さん)
「(お住まいに娘さんの写真は多くないんですか?)ほとんどないです。全部流されたので。数える程度、5枚とかそのぐらいですかね。ほんと小っちゃいころとかしかなくて、こういう小学校の頃はぜんぜんないです」
この日の返還会には菅原さんや高田さんを含め、震災後、大槌町から移り住んだ人を中心に20人ほどが足を運び、あわせて65枚の写真が持ち主の元に戻りました。
震災発生から12年が近づくタイミングで大槌町が初めて花巻で返還会を開催したのには理由がありました。

「思い出の品」も劣化には抗えず~迫る引き渡し期限
(大槌町協働地域づくり推進課長 郷古潔さん)
「お返しする機会を設けた上で、今後の対応ということでは年度末に一定の区切りをつけるということの上でも…」
「一定の区切り」。この言葉は思い出の品の一部、写真を除いた物品を廃棄することを意味します。
決断に踏み切った理由を聞くため、大槌町内で思い出の品を収めている場所に行きました。
(大槌町協働地域づくり推進課 小笠原佑樹さん)
「(こちらにその保管されている思い出の品を出していただきましたけれども、状態っていうのはどういうふうに変わっていきましたか?)やはり保管、きれいにしていたものでもですね、年数が経つにつれて布などは劣化してきたりですね、あとはアルバムなども段々くっついて開くことができなくなってきていたりとかですね」
大槌町は思い出の品を大きく物品と写真に分けていて、現在、物品を300点、写真をおよそ5万枚保管しています。写真は今年度中にスキャンして、データとして残すことにしましたが、写真以外の物品は劣化が進んでいるため、処分することに決めました。
(リポート)
「この思い出の品の一つにランドセルがあるんですけれども。確かに劣化が進んでいて、このあたりがもう黒くカビのようなものが出てきていますね」
岩手県内の沿岸12市町村で東日本大震災に関わる思い出の品の廃棄を決めたのは岩泉町に次いで大槌町が2例目です。そのほかの自治体の中にも思い出の品の劣化が進んでいるため保管時期の検討に入っていたり、そもそも保管自体を外部に委託したりしているところがあります。
また処分を決断したのにはもう一つ理由がありました。年度ごとの返還数を見ると毎年わずかながら思い出の品の返還が続いていますが、これを物品に絞ると2016年度以降返還がない状態が続いているのです。
花巻市で行われた返還会でも物品を写真に収め公開しましたが、引き渡しを希望する人はいませんでした。
(大槌町協働地域づくり推進課長 郷古潔さん)
「これ以上の保管はちょっと困難なのかなということで、となるとなおのこと、もういっぺんここでできるだけ多くの皆さんにこれをお知らせして、その上で(廃棄の)対応をさせていただきたいというふうに考えています」
転換点を迎えている思い出の品の取り扱い。時間の経過とともに引き渡しの期限が迫っています。