12年ぶりに復活した地域の運動会 取り戻す“心のつながり”/大槌町
<ニュースエコー 2022年10月12日>
岩手県大槌町の安渡(あんど)地区で50年近く続いていた地区の運動会。東日本大震災で途絶えていましたが今年、12年ぶりに復活しました。地区の人たちが運動会に寄せる思いを通して、心の復興とは何かを考えます。
さわやかな秋晴れに恵まれた10月9日、岩手県大槌町の安渡地区で運動会が行われました。住民の交流を深めようと50年近く続いていた運動会は、東日本大震災で地区が大きな被害を受け途絶えていましたが、今年、12年ぶりに復活しました。(安渡町内会 佐々木慶一会長)
「12年ぶりなんでね、来た人がとにかく楽しんでもらえるような運動会にできればいいなと思っています」
町内会長の佐々木慶一さんです。地区の人たちに運動会の復活を呼びかけ、ひと月前から準備に取り組んできました。
(佐々木会長)
「じっとしていても前に進みませんので、失敗を恐れないで一歩踏み出そうと」
佐々木さんには運動会の復活に込めた願いがありました。
(佐々木会長)
「ハードの事業の復興は終わったんですけども、人とのつながりは希薄になってきているままで。ここを深めていかないと本当の安渡の町じゃないと思いますので、人と人とのつながりをもう一度深めたい。強めたい」

「もう一度、昔の“安渡”に」 津波で1割超が犠牲 その後も人口は大幅減
震災前の安渡地区の運動会を記録した映像です。子どもからお年寄りまで地区の人々がこぞって参加し、趣向を凝らしたコミカルな応援合戦で盛り上がりました。
この映像を撮影した煙山佳成さん(84)です。およそ60年にわたって地域の祭りや催しを映像に記録してきました。煙山さんには運動会に向けて心配なことがありました。
(煙山佳成さん)
「私が心配してるのは人数。参加者がどのくらい集まるのかが心配だね」
安渡地区は住民の1割を超える218人が津波の犠牲になりました。震災後に地区を離れた住民も多く、人口は震災前の4割にまで減りました。
町内会で副会長を務める小国亨さんも震災後に安渡を離れた一人です。今は釜石市で家族と暮らしていますが、ふるさとへの思いは断ちがたく、町内会の活動に通い続けています。
(小国亨さん)
「震災前はここ安渡でみんなで楽しくやった思い出がすごくあるので、そこで自分の心がいったん途切れてしまっているのでもう一度、昔みたいな安渡になってほしいなという思いはいつでも思ってます」

運動会は盛会に 「心の復興」笑顔に手応え
そして迎えた12年ぶりの運動会。
(選手宣誓)
「和気あいあいと楽しく体に鞭打って競技することを誓います!」
公民館前の広場に人々の笑い声が響きました。
公民館の調理室では婦人部の女性たちがお昼ごはんづくりに大忙しです。この日の献立は安渡の郷土料理「ごまご飯」。少し甘い懐かしの味です。
(中村百合子さん)
「みんなが集まって楽しんで、声かけあって笑うのが一番ではないでしょうか。そのために私たちも頑張って懇親会のもの(昼ごはん)作りしています。昔を思い出してもらえればと」
グラウンドには記録係の煙山さんの姿がありました。人が集まってくれるか心配していましたが…
(煙山佳成さん)
「このくらい集まればまあまあいいほうじゃないですか。みんな散り散りバラバラになっているからね。人も少なくなっている中でこのくらい集まったらいいほうじゃないですか。天気もいいし大成功ですよ」
もう一人の記録係、北浦知幸さんは京都府の出身です。町の地域おこし協力隊として震災伝承に取り組んで1年半になります。運動会が復活すると聞き、力になりたいと駆けつけました。
(北浦知幸さん)
「(震災)前の様子は僕は分からないですけど、皆さんが目指している前やった行事を少しでも感じることができたらなと思います」
北浦さんのように大震災を経験していない若い人たちにとって、地域の行事を肌で感じることは震災によって失われた文化を学ぶことでもあります。
お昼はみんなで仲良く郷土料理の「ごまご飯」をいただきます。
「おいしいです。昔食べたんです、こういうの」
「失敗を恐れず一歩踏み出そう」と話していた町内会長の佐々木慶一さんは、人々の笑顔に手ごたえを感じていました。
(佐々木会長)
「なんとか盛り上げるきっかけを作りたいと、そのきっかけの一つがきょうの運動会だった。これからがみんなの繋がりを深める本当の心の復興の第一歩ではないかと思っています。きょう一歩踏み出したことで何とかできるんじゃないかという感覚は住民の皆さんが持ったと思うんです。顔見ていてもみんな明るい顔してますね、こういう明るい顔を見たいんで一生懸命やりたいと思う」
12年ぶりに復活した大槌町安渡地区の運動会。そこには、人のつながりを取り戻す「心の復興」に懸命に取り組む人々の姿がありました。