品切れの絵本を寄付金で増刷 元小学校教諭が伝えたいこと/大船渡市
<ニュースエコー 2022年9月21日>
自ら制作した絵本で復興教育を行う岩手県大船渡市出身で元小学校教諭の男性がいます。活動を続ける中、男性のもとに匿名の寄付が寄せられ、品切れ中だった絵本が増刷されました。絵本を通して男性が伝えたいこととは。
大船渡市三陸町、吉浜湾を臨む高台の一軒家です。入り口の看板には「日本一小っちゃな本屋さん」とあります。「(こんにちは)いらっしゃいませ、どうぞ」
温かく迎えてくれたのは、「小っちゃな本屋さん」の店主、小松フスミさん(89)です。玄関脇の店頭に並ぶ4冊の絵本は、フスミさんの長男で元小学校教諭の小松則也さん(64)が制作しました。
このうち絵本「ふろしきづつみ」は、2011年3月11日に県立高田病院に入院していた父・雅男さんと見舞いに訪れていた母・フスミさん、妹の勝子さんの被災体験がもとになった物語です。あの時、津波にのまれながらもフスミさんが持っていた風呂敷包みに入っていた毛布やパジャマのおかげで助かったという実話です。
(小松則也さん)
「やっぱり風化を防ぐためにも、高田病院であったことを事実として小さな一家族の物語だけれども、書かなければいけないと思ったんです」

ドラマ化もされ絵本「ふろしきづつみ」は品切れに 匿名の寄付により増刷が決定
震災から2年後、小松さんは絵本「ふろしきづつみ」を自費出版しました。作品は2017年に県の復興動画プロジェクトとして「日本一ちいさな本屋」としてドラマ化され、県内で上映会が行われました。それが全国的に注目され、絵本は品切れの状況に。小松さんはもどかしさを感じていました。
(小松さん)
「わざわざ遠くから来て、『ふろしきづつみ』がなくてお断りして、代わりに別の本を買っていただくみたいなことがもう何年も続いてたんです」
こうした中、今年3月、小松さんの活動がテレビで全国に紹介されました。
(小松さん)
「協力したいという方がおりまして。この本は多くの人に読んでもらわないといけないと直感したそうなんですよ」
絵本の品切れを知った東京在住の女性から匿名の寄付があり、2000冊の増刷が決まったのです。
(小松さん)
「ちっちゃい本屋は続けていきたいし、いろんなご縁があってまた多くの方に読んでもらえることに至ったのかなと思っています」

津波の話を子どもたちに~絵本と教員経験生かし防災教育を続ける
(小松さん)
「こんなごどあったんだよ」
9月12日、小松さんの姿は岩泉町立安家小学校にありました。小松さんは小学校教諭の経験を生かし、自ら制作した絵本を通して復興教育を行っています。
(安家小学校 山本一行校長)
「小松先生が校長先生の先輩。校長先生は小松先生の後輩。こまっち、やまちゃんと呼び合う仲でした」
全校児童3人を前に授業です。岩泉町の安家地区は2016年8月の台風10号で安家川が氾濫し、多くの住宅が被災するなど被害の爪跡が大きかった場所です。
(小松さん)
「津波の中でね、必死になってね、頑張って乗り越えてきた家族のお話を紹介します。私の家族です」
2011年3月11日県立高田病院での出来事です。
(小松さん)
「それから間もなくして、突然ガラスの窓がガタガタと音を立てて揺れ始めました。ベッドは縦横に大きく揺れ、母と妹は父のベッドにしがみつきました。そして、数分経ってまた大きな地震が来たんです。2人は信じられないような光景を見ました」
(話・小松フスミさん)
「病室にどんどん水が入ってくるし、そしたら娘が、『親子3人で死ぬべし』って言ったんですよ。その時いっぱい水が天井までつくぐらいもう溜まってしまったからね。その時、トントントントンと夜寝るときの毛布をつつんだ“ふろしきづつみ”が浮いてきたんですよ。流れて」
(小松さん)
「父は乾いた毛布にくるまり仰向けになりました。そして2人は父を挟むようにぴったりと体を寄せ合いました。空腹と寒さの中で一番温かく感じたのが、人の体温だったそうです」
小松さんは授業を通して、子どもたちに考えてほしいテーマがありました。
(小松さん)
「思ったことが答えですから」
(上日向峻輔君)
「自分が考えた授業のテーマは『災害の怖さを教え続ける』です」
(川口唯夢さん)
「『伝えることを続ける』です。大変な時は、助け合いが必要だと思いました」
(高舘颯也君)
「『震災への対策を続ける』。震災に備えて対策や準備、知識を増やしたいと思った」
子どもたちの答えに対し小松さんは。
(小松さん)
「自分のことをしっかりやって、大事だと思うことを頑張り続けることかな」
小松さんは、自らの活動とも向き合い続けます。
(小松さん)
「絵本についてはやっぱり自分のライフワークなので、続けて書いていきたいなと思います」
1ページ1ページ、小さな活動の積み重ねはきっと誰かに届く。その思いは小松さんの復興教育への原動力につながっています。