「ワーケーション」で 被災地に活力を/釜石市
<ニュースエコー 2022年1月12日>
東日本大震災の被災地に共通の課題として挙げられるのが人口減少とそれに伴う経済の衰退です。そうした課題の打開策の一つとして注目されているのが、「ワーケーション」です。ワーケーションとは「ワーク」と「バケーション」を合わせた言葉。首都圏で働く若者を地方に呼び込もうというワーケーションとはどのようなもので、被災地に何をもたらすのか、岩手県釜石市での取り組み例です。
東日本大震災からの復興事業が終わった釜石市中心部に建つ一軒の家。中に入ると何人がパソコンに向かっています。「全体のスペースの平面図を描いていました」
仕事をしていたのは、普段は東京のオフィス家具メーカーに勤める人たちでした。ここは2021年10月、釜石市が民間企業と共同で立ち上げたワーケーション施設「ねまるポート」です。かつて和菓子店だった建物をリノベーションしました。ここにいる人々は、3泊4日の日程で釜石市に滞在する「ワーケーションプログラム」の参加者でした。
ワーケーションとは働く意味の「ワーク」と休暇の「バケーション」を合わせた言葉で、休暇を取りながら仕事もするという働き方のことです。
(オカムラ 働き方コンサルティング事業部 庵原悠さん)
「テレワーク対応をしてコロナ禍を経てオフィスを変えなきゃという話になってきている中で、オフィスの中でもウェブ会議をする機会が非常に増えている」
オフィス家具メーカーで新しい働き方を提案する庵原悠さんです。このワーケーション施設のオフィスデザインを手がけました。
(オカムラ 働き方コンサルティング事業部 庵原悠さん)
「ここは元々和菓子屋さんだったところで、小さな庭とテラスもある場所なので、外の自然を感じながら温かみのある働きやすい環境にしようと考えて」
「おはようございます。よろしくお願いします」
働きやすい環境に加えて快適な通信環境と最新のテレワーク設備を備えています。

「震災」も学ぶ~釜石でのワーケーションの意義
政府は国の成長戦略に果たす地方の役割を重要視しています。
(岸田文雄首相)
「新しい資本主義の主役は地方です。4.4兆円を投入し、人口減少、高齢化、産業空洞化などの課題を、デジタルの力を活用することによって解決していきます」
震災後の人口減少に歯止めがかからない釜石市。ワーケーションの取り組みは、デジタルの力も活用し、釜石と繋がる人口を全国に増やして復興後のまちに活力を与えようという狙いがあります。
ワーケーションプログラムにはいくつかのメニューがあります。その一つ、「釜石を知り・楽しむ」という項目は地域づくりを担う地元の会社が手がけます。
(釜石DMC 河東英宜社長)
「人口減はなかなか抗えない。首都圏の企業が地域と関わってもらうことを増やしていくことで、それで補える部分があれば補っていける形を作っていくのも一つの方向ではないか」
(語り部ガイド 川崎杏樹さん)
「震災前からの防災学習で津波がどういうものかとか、過去の映像見たりしていたんですが・・・」
ワーケーションで釜石を訪れる企業が必ずプログラムに加えるのが震災学習です。危機的な状況に陥った時どう判断すればよいのか、困難を克服して持続可能な社会を作るために必要な事とは何か。被災地を歩き地元の人たちの話に耳を傾けることで、危機管理に対する能力と社会貢献のあり方を学ぶことができます。
(オカムラ サスティナビリティ推進部 遊佐希美子さん)
「プログラムが工夫されていて、観光というと釜石のいいところは沢山あるんですけど、学びを得られるという仕組みが沢山あって、そうした点で関係人口、釜石のファンが増えていけばいいと思いました」
都会にはない自然を体験することもワーケーションの大きな魅力の一つです。この日は山に入り、まき割りや林道づくりなど山の仕事を体験しました。
(オカムラ 地方創生ビジネス推進部 芳村洋平さん)
「実際に来たほうが伝わるものが大きくて、空気もすごくおいしいし、人の温かさも」
(オカムラ 営業企画部 岸杏奈さん)
「ワーケーションってバケーションとワークで半々みたいなイメージだったんですけど、うまく融合というかどこからどこまでが仕事かどこまで遊びか分からない感じが面白くて」

ビジネス創出にも~ワーケーションを被災地のチャンスに
ワーケーション施設のデザインを手掛けた庵原さんによりますと、今、企業の間では「ワーク・エンゲージメント」という、従業員が仕事にポジティブで充実した心理状態であることに関心が高まっているといいます。
(オカムラ 働き方コンサルティング事業部 庵原悠さん)
「ただただ頑張って働くだけじゃなくて、たまには都心から離れた場所で景色を眺めたり、地域の人とも交流をもったりしながら心と体をリフレッシュさせながら働くやり方が逆に生産性を高めていったりというところにもつながっていくんじゃないか、そういう期待があります」
一方、釜石ではワーケーションを新たなビジネスチャンスとして期待する声もあります。
(釜石DMC 河東英宜社長)
「企業とのセッションを設けておりまして、そこの中で企業の話を聞いて、釜石の企業と今後何か一緒にできることはあるかなという芽が芽生えてくれたらすごくいいなと思っていて、そういう会議の場なども『ねまるポート』が担ってもらえればと思っています」
大震災の発生から11年を迎える今年、官民連携で取り組む釜石のワーケーションが人口減少を乗り越える切り札となれるのか、注目です。