新たな浸水想定の対象に ~見えた課題/釜石市
<ニュースエコー 2021年10月20日>
去年、国は日本海溝や千島海溝で巨大地震が発生した場合の津波浸水想定を公表しました。想定では東日本大震災で被災を免れたものの、新たに浸水域に指定された地域があります。岩手県釜石市のその対象地域で、初めて津波避難訓練が行われました。訓練から見えてきた課題とは。
「皆さん地震です!大きな地震が来ました!頭を守ってください」釜石市にある民間の在宅介護支援センターです。今月14日、地区で行われた津波避難訓練に参加しました。これまでこの施設では津波を想定した訓練を実施したことは一度もありません。 在宅介護支援センターがある釜石市の中妻地区です。海から2キロ以上離れていて、東日本大震災では津波による建物被害はありませんでした。ところが去年9月、内閣府は最大クラスの津波が発生し防潮堤が破壊された場合、中妻地区にも浸水の可能性があるという想定を公表しました。在宅介護支援センターがある地区は最大で5メートル浸水する想定と記されました。
(中妻地区地域会議 佐藤力議長)
「『これは危ないなと、今までなかった事だし』ということで、4町内会でこれは一回(津波避難)訓練をしたほうがいいんじゃないかという話が持ち上がった」
こうして釜石市に協力を依頼し、初めてとなる津波避難訓練を実施しました。

避難訓練で課題が浮き彫りに
「はいこっちでーす!」
在宅介護支援センターでは避難の課題を確かめるため職員が高齢者の役となり、車いすでおよそ500メートル離れた市が指定する避難場所を目指しました。しかし実際の避難について職員は不安を抱いています。
(ニチイケアセンター釜石 富岡玲子センター長)
「みんな災害の時は自分の命を守ることが大切だと思うのですが、例えば町内の方に(避難に)協力して下さいと言うのが良い事なのか悩んでしまいます」
釜石市は介護が必要な高齢者や障がい者などひとりでは避難が難しい人について、今年度から個別の避難計画を立てる取り組みを始めました。すると津波災害特有の難しさが立ちはだかりました。
(釜石市の避難行動要支援者担当 川崎達巳主幹)
「ほかの災害に比べて津波の場合は到達までの限られた短い時間に避難しなくてはならないのが一番大きな問題。そうしたリスクの高い災害に対して支援者を確保するのは大きな課題と捉えています」
「よいしょ、はい、はい!」
地震発生から15分で津波が到達する想定で行われたこの日の訓練。参加した在宅介護支援センターの職員は避難の難しさを痛感していました。
(職員)
「15分って短いと思いました。あっという間ですね」
(ニチイケアセンター釜石 富岡玲子センター長)
「誰も犠牲にしないためには15分をクリアしなくてはならないという思いで皆逃げていましたけれども、きょうは1回目なのでこれから回数を重ねてもっと早く安全に動けるような訓練をしていきたい」

「ここまでは来るはずは・・・」津波への意識
釜石市は、先月末の時点で316人を避難に介助が必要とされる「要支援者」に登録し、周囲の人や地域に手助けを要請しています。
(釜石市の避難行動要支援者担当 川崎達巳主幹)
「市で対応できない部分を地域の共助の力で何とか避難の支援に繋げられるように協力を得ていきたいと考えている」
要支援者への早急な対策の必要性が叫ばれる一方で、地域防災を研究する専門家は「まずは避難が可能な人が確実に避難する訓練を積み重ねることが、要支援者の避難につながる」と話します。
(岩手大学地域防災研究センター 熊谷誠特任教授)
「住民の力が及ばないことがどこなのかということをやっていくためにも、まず住民ができること、行政が手伝ってできることまでやって(要支援者に)どういう対策ができるのかという方向に動いていく」
これまで津波の心配はないとされてきた地区で初めて行われた津波避難訓練。参加した住民の中には「津波が来るとは信じがたい」と感じている人も少なくありません。
(住民)
「ここまで水がくるといったら釜石が全滅だもんね。私はここまでは津波はあり得ないと思っている」
(中妻地区地域会議 佐藤力議長)
「まだ大丈夫だろうという意識があります。だからその意識を無くして次回は真剣にこれ(訓練)にプラスアルファするようなことも考えたい」
東日本大震災で被災を免れた釜石市の中妻地区。まずは住民の危機意識をどう高めていくのかが大きな課題です。