愛されるジャズ喫茶の名店 復活までの10年/陸前高田市
<ニュースエコー 2021年10月6日>
岩手県陸前高田市で、津波で全壊したジャズ喫茶の名店が店舗を再建しました。再起を後押ししたのは店を愛するミュージシャンやファンたちでした。震災後10年の道のりを振り返ります。
京都を拠点に全国を旅しながら歌うシンガーの豊田勇造さんです。豊田さんが訪れたのは陸前高田市のジャズ喫茶、「ジャズタイムジョニー」です。(店主 照井由紀子さん)
「おかげさまでようやく。どうですか?」
(豊田勇造さん)
「きれいなお店だね」
店を切り盛りする照井由紀子さん。豊田さんとは40年以上の付き合いです。ジョニーは1975年に開店して以降、全国にその名を知られ、数多くのミュージシャンがライブに訪れる陸前高田の名物店でした。しかし東日本大震災の津波で店は全壊しました。
(照井由紀子さん)
「ここから全部見渡す限り、がれきになっていた」

失意の底からの再起~相次ぐ支援の申し出
常連客も津波の犠牲になり失意の底に沈んだ照井さんでしたが、震災から半年たった2011年9月、店の再開を望む人々の声を支えに仮設店舗で営業を再開しました。店にはレコードやオーディオ機材が全国から次々と寄せられました。
(照井由紀子さん)「もう嬉しいとしか言いようがない。私のお店ではないんです。みんなの店だとずっと思っている」
小さな仮設店舗の新たな船出を祝う最初のライブをしたのが豊田さんでした。
(豊田勇造さん)
「『ゆきさん』がジョニーをやっていればどこでやっていてもそこが『ジョニー』」
店の本格的な再建に向けた動きが始まったのは震災発生から5年ほど経ってのこと。「ジョニー」を愛するミュージシャンと常連客が店の再建資金を募る運動を立ち上げたのです。発起人のひとりで奥州市在住のシンガー「やなぎ」さんです。横浜市生まれのやなぎさんは都会で歌うことに疲れ、30年前に岩手に移住しました。
(やなぎさん)
「田舎でのんびりやるかなと思っていたんだけど、たまたまジョニーに入って常連になって。もう一回歌ってみようかなという気にさせてくれたのがジョニー。このまま無くなってしまうのがしんどかった」
やなぎさんや豊田さんたちの呼びかけに支援の輪は瞬く間に全国に広がり、去年、募金額は目標の800万円を超えました。

ファンの愛に包まれ復活 陸前高田でこれからも
そして先月、ついに「ジャズタイムジョニー」の新たな店舗が完成しました。店を愛するファンやミュージシャンの願いが、ついに実を結んだのです。木のぬくもりを感じる店内、照井さんが丁寧に淹れるコーヒーの味は震災前と変わりません。
(照井由紀子さん)「いちばんはお客さんがくつろいでくれること。その笑顔とか姿が見られたら私もほっとして楽しい」
豊田さんがジョニーを訪れるようになって43年、この日は再起を祝う記念のライブになりました。
(豊田勇造さん)
「一緒に生きてきたという感じ。大震災や津波があってそのことも重なりながら、一緒に生きてこさせてもらった」
震災から10年を経て再建を果たしたジャズ喫茶「ジョニー」。これからも様々な人々の人生と重なりながら、まちの心のオアシスとして新たな歴史を刻んでいきます。