すべてを失った町に集える場所を ~「おしゃっち」3年の歩み/大槌町
<ニュースエコー 2021年5月12日>
津波で大きな被害を受けた岩手県大槌町の中心部に再建された「大槌町文化交流センター」。江戸時代に遡る歴史ある場所に施設が再建されて間もなく3年。町の人々が親しみを込めて「おしゃっち」と呼ぶ施設に集う人々の声を取材しました。
大槌町の中心部に2018年6月にオープンした大槌町文化交流センターです。県産の木材をふんだんに使った温かい雰囲気の建物は子どもから大人まで多くの町の人々に愛されています。
震災前、この場所には「御社地(おしゃち)ふれあいセンター」という交流施設がありました。
(2011年4月 リポート)
「御社地の公民館。時計は午後2時49分で止まっています」
壊滅的な被害を受けた大槌の中心部にあった建物は津波で全壊しました。
新たな施設は、津波で失われた交流施設と図書館に代わる施設として震災から4年後の2015年に再建計画がスタートしました。

目立つ子どもたちの姿
(再建計画に携わった臼澤洋喜さん)
「正直ここまで人が来るっていうのは想像以上です」
設計から計画に携わった町の職員・臼澤洋喜さんです。再建に向けたワークショップで町民が口にしたのは「津波ですべてを失った町に人が集える場所を一日も早く」という切実な声でした。
(臼澤洋喜さん)
「皆さんからの貴重な意見をいただいた中で多かったのが、『用が無くても気楽に立ち寄れる場所があればいい』ということだったので、そういった意見を大切にしたいという思いでやってきました」
ここに集う人々の中で目立つのは子どもたちの姿です。ここは震災後、子どもたちが学校以外で友だちと過ごせる数少ない場所のひとつだからです。
(中学生)
「友だちと遊ぶってなったら、大槌の中ではここしかないなって」
「上に図書館があるからマンガを読んだりもできる」
「あと勉強もできる」
(記者)「あってよかった?」
(中学生)「あってよかったです」
新しい文化交流センターを町の人たちは親しみを込めて「おしゃっち」と呼びます。建物が建つあたりの土地を地元の人々は古くから「御社地(おしゃち)」と呼んでいます。
(町民)
「町の人たちは、孫を連れて夕涼みに来るとか、憩いの場所みたいになっていた」
御社地の名前の由来は、江戸時代の中頃まで遡ります。全国を行脚したとされる大槌の僧侶、菊池祖睛が「東梅社」と名付けた霊場を開いたのが由来とされています。

目指したのは「居心地の良い」図書館
5月3日、おしゃっちの多目的ホールでは、町の人たちが、江戸時代に有名な仏師が作ったとされる仏像など、町の貴重な文化財について学んでいました。
(大槌町の文化財を調査している佐々木勝宏さん)
「安岡良運って書いてありますよね、この人が仏師なんですよ」
大槌町の文化財を調査している盛岡市の佐々木勝宏さんは、おしゃっちが大槌の歴史を学び伝えていく中心的な役割を担うことを期待しています。
(佐々木勝宏さん)
「盛岡藩領内でこんなに寺子屋があるところはないんです。『昔の皆さんのご先祖はこういうことをして生活を維持してましたよ、教育力も文化力も経済力もありましたよ』ということをお伝えしたい」
3階の図書館です。銀行だった建物を改装した震災前の図書館は、屋上まで津波にのまれました。
図書館の再建計画を主導した町の職員・岡野治子さんです。誰にでも親しみやすい雰囲気作りを大切にしてきました。
(図書館の再建計画を主導した岡野治子さん)
「『図書館作ったって誰も行かないよ』と言われたことがあって、なにくそって思いながら、でも確かに昔の図書館のイメージは入りずらいし堅苦しいのがあったので、居心地のいい図書館、一歩足を踏み出してもらえる、そういった空間になるよう目指しながら(進めた)」
岡野さんたちの気持ちは利用者に届いていました。
菊池国雄さんは週に一度は図書館を必ず訪れます。窓際の席で外の景色を見ながら歴史小説を読むのが何よりの楽しみです。
(週に一度は図書館を訪れる菊池國雄さん)
「利用者数は多いと思います。3階に図書館があるので見晴らしがいいし、他の図書館にはない醍醐味がここの図書館にはあると思う。ここの図書館は自分の生活の中に組み入れてあります」
おしゃっちは町から指定管理の委託を受けた民間の団体が昨年度から運営しています。
(おらが大槌夢広場・生利望美さん)
「こちらは大槌町をアピールする商品を作っている方々の物販のコーナーです」
去年は新型コロナウィルスの影響を受けながらも、参加型の事業を積極的に展開し、町が運営していたおととしの利用件数1474件を250件ほど上回る1726件の利用実績を残しました。
おしゃっちは6月にオープン3年を祝うイベントを計画しています。
(生利望美さん)
「日ごろ使って頂いてる方々に発表の場を提供して、コロナ禍だけど少しでも(活動)再開のきっかけにしてもらえたら」
オープンから間もなく3年。
おしゃっちは大槌の人たちの心のよりどころとして、暮らしの中にしっかりと根付いています。