地域に笑顔を届けたい ~料理人からカキ養殖漁家へ/大船渡市
<ニュースエコー 2020年2月5日>
岩手県大船渡市にフレンチの料理人からカキ養殖漁家へと転身した男性がいます。埼玉県から移住して1年。将来の夢は自らが育てたカキを自分で料理し、地域に笑顔を届けることです。
大船渡市赤崎町清水地区はカキ養殖の盛んな地域です。
カキ養殖に取り組んでいるのは埼玉県大宮市出身の志田健人さん26歳。この道、まだ1年ほどの新人です。健人さんは来月から始まる出荷に向け、「株分け」と呼ばれる作業を黙々と行っていました。
(すっかり慣れた感じですけど?)
「いやいやぜんぜん、ぜんぜんです。まだまだ素人です」
東京でフランス料理の料理人をしていた健人さんは赤崎町出身の理実さんと出会い、おととし12月、結婚を機に大船渡に移住。理実さんの実家では両親と祖父母が待っていました。
健人さんはすぐに志田家の家業、カキ養殖を手伝いはじめました。
「料理人やってる時は全部剥かれた状態できてたりとかしてたので、まあ殻付きもありましたけど。そもそもカキがこういうふうに育ってるってのは知らなかったんで」「手間がかかってるなっていう印象はありますね」
以前は、ただ料理の「素材」として見ていたカキを育てる立場になりました。大変さを実感する毎日です。
養殖施設に向かう船の上でテキパキと作業をする健人さん。義理の父、志田順也さんの下で学んでいます。カキがびっしりと付いたロープを順也さんが引き上げ、ロープから外す作業は健人さん。2人の息はぴったりです。
「いや、助かってますよ」「一番うれしいですね。助かってて良かったです」

地域に溶け込む…消防団活動にも参加
1年前、健人さんは東日本大震災の被災地へ移住することに迷いはありませんでした。
「奥さんとの結婚が一番の理由でこっちに来たんですけど。カキの養殖をやるって決めた時まったく未知の世界だったので、ただやっぱり興味があって。それを含めてこっちに来ました」
新しい世界へ思い切って飛び込んだ健人さん。飛び込んだのはカキ養殖だけではありません。
「おはようございます」
「お疲れ様です」
「お疲れ」
「なんか恥ずかしいっすね」
この日、健人さんは所属する消防団の「夜警」に参加していました。冬場の火災防止を呼びかけるために毎晩行っている夜のパトロール。健人さんも月に3回ほど当番が回ってきます。
「なんかよく話してるんすよね、欣之さんと」
「もっと楽になる方法ないのかなって」
「あの桁そうじとか」
「多分あると思うよ」
夜警に回るまでの時間、消防団の先輩でもあり同じカキ養殖を営む先輩たちと仕事について語り合ったりもします。
志田浩樹部長
「今まで入った人見る中で後輩見る中で一番早く馴染んだ子なんじゃないですかね、実は。来たその日に馴染んでました。それはびっくりしましたよね。酒パワー」
「間違いない」
「酒があれば誰とでも仲良くなると思います」
消防団でも新人の健人さん。ポンプ車の助手席に乗って道を覚えながらの夜警です。
「いや道覚えるのが大変です。道がなかなか覚えられないですね」
健人さんは消防団に入ることで地域の若者たちとの交流を深め、この土地に溶け込んでいこうとしています。
「こっち来て初めて消防団っていうものを知って。実際にこの間の台風の時とか活動をしてみて大変なこともたくさんありますけどやっぱりそうやって地域のために活動できるっていうのはまあいいことなのかなって思います」

将来の夢は、作った牡蠣を自分の料理店で提供すること
週末、健人さんが腕を振るい自分が育てたカキを使ったカキ尽くしの夕食を作りました。
「プリップリですね、むちゃくちゃ」
カキのペペロンチーノなど4品を作りながらあらためて赤崎のカキの素晴らしさを実感します。この日は妻・理実さんの祖父母と共に食卓を囲みました。
「食べよう、いただきまーす」
「いただきます」
目の前にはペペロンチーノのほか、フリッターやグラタン、クラムチャウダー。元・料理人の腕を発揮したメニューにみんなが舌鼓を打ちます。
「健ちゃん来てからいろいろ変わった料理をごちそうになるからそれこそ幸せです」
「衣がサクサクしてて中のカキも自分の家で養殖してるやつだとなんかよりおいしく感じます」
「もちろん、おいしいです。最初から最後まで自分でやるのなかなかできないことだと思うんでそれができて嬉しいです」
震災から復活したカキ養殖を継ぐと心に決めた健人さん。いまはまだ修行の身ですが、将来やってみたいことがあります。
「おいしいもの食べたらみんな笑顔になりますし、作り手側も笑顔になりますし、ものすごい食っていいと思うんですよね、そういう意味で。だからそうやってそういうお店がもしできたとして、そのお店でこのまちを盛り上げられることができれば一番ですね」
自分が作ったカキで地域に笑顔と元気を提供したい。健人さんは新たな夢に向かって走り始めたばかりです。