「歌う司法書士」被災地を行く ~巡回相談の傍らライブ活動/岩手
<ニュースエコー 2019年9月4日>
東日本大震災で家や財産を失った人たちの助けになろうと、東京の司法書士会が被災地で訪問相談を行っています。このうちのひとりが、岩手県で司法書士の活動の傍らミュージシャンとしてライブを行っています。被災地の人々の声に耳を傾け続ける男性が歌に込めた思いを取材しました。
「司法書士会の巡回相談です」
東京の司法書士・原田圭介さん(54)です。この日、原田さんたち東京の司法書士会に所属する4人は、山田町の仮設住宅を回って被災者の相談にあたりました。
「もう次、決められました?」「今、建ててます」「ご自宅?」「はい」
原田さんが所属する東京司法書士会は、岩手県司法書士会の求めに応じて震災があった2011年から定期的に司法書士を被災地に派遣して仮設住宅をまわり、被災者の相談にあたってきました。震災で家や財産を失った被災者からは、相続にあたっての名義変更や借金の問題など多くの相談が寄せられました。
(相談した人)
「借金で家を建てたから、これから払っていけるかいけないか。金銭面で借りて家を建ててるから払っていくのに大変だ」
原田さんたち東京司法書士会の職員は現在、陸前高田市と大槌町に活動の拠点を構えて沿岸の仮設住宅を巡回しています。
(仲間の司法書士)
「ごめん私地図置いてきてる」
(リポート)
「どうやら道に迷ったようです。被災地は刻一刻と道路の状況が変わるので、慣れないと目的地になかなか着かなかったり…大変です」
原田さんはこれまで30回以上にわたり沿岸被災地の巡回相談に参加しました。東日本大震災の発生から間もなく8年6か月。住まいの再建が進み、仮設住宅に暮らす人たちは残りわずかになりました。しかし、一方で悩みを抱え、次の暮らしに踏み出せずにいる人がいます。
(司法書士・原田圭介さん)
「今(仮設住宅に)残ってる方は何か事情がある。でも何となく聞いてると、あまり暗い事情の人は少なくなってきている」

ミュージシャンとして被災地で歌う
仕事を終えた夜釜石市内のバーに向かった原田さん、取り出したのはギターです。
司法書士・原田さんのもうひとつの顔、それはアマチュアのミュージシャンです。若いころから歌をつくり、一時はプロを目指したこともありますが、今はこうして週末や仕事を終えた後に歌っています。被災地を巡回相談に訪れる際も歌える場所を探しては、こうしてライブをやっています。
「♪記憶のない一日を あなたは今日も生きている 初めましてと怪訝そうに 僕の顔をみつめてる…」
記憶があいまいになっていくお年寄りに思いを寄せて作ったという、「記憶のない一日」。被災地で出会った人々の姿が歌に重なると話しますが、震災をテーマに歌うことには心が揺れています。
(原田さん)
「僕は(震災を)ストレートにというのはちょっと怖くてあんまり書かない。いろんなところにちりばめてはいますけど。(被災地に)向き合って書いた曲はなかなかこっちで歌いにくくて歌えない。(歌は)ちょっとあるんだけど難しいから歌ってない」
司法書士として被災地に足を運び、人々が抱える苦しさや辛さを理解しているからこそ、心に抱く複雑な思いがありました。
「♪記憶のない一日を 二人きりの不思議な時間 記憶のない一日を どうかあなたの思い出として」
仮設住宅の終了とともに、原田さんたちの巡回相談も終わります。
(原田さん)
「活動がなくても歌いに来るとは思う。やっぱり見たいです。立ち上がっていく感じ、出来上がっていく感じ。自分があのぐちゃぐちゃだった頃からここまで来るを見たら、このあとどうなるんだろうって気にならないわけがない」
「歌う司法書士」、原田圭介さん。被災地を訪れ、人々の悩みに耳を傾けて、8年。原田さんは、いつか、司法書士ではなくミュージシャン原田圭介として岩手に歌いに来る日が訪れるよう願っています。