「なりわいの再生へ」 ウニ養殖の挑戦/洋野町
<ニュースエコー 2019年4月24日>
最近、岩手県内の沿岸で、春先にウニが大量に増えて昆布を食べ尽くしてしまう現象が見られます。エサ不足に陥ったウニは実入りが悪くなり出荷できず、昆布も生えなくなります。こうした悪循環から磯のバランスを回復させようと、ウニ養殖の実証実験が岩手県洋野町で行われています。
沿岸北部、洋野町の海岸です。遠浅の岩盤に「増殖溝」という溝を掘ってウニを育てています。
「すっと溝になって、縦に何本だったかな」
種市漁協の生産部長、前森光雄さんです。前森さんが見つめる増殖溝の中では多くのウニが出荷の時期を待っています。
「これがあるから、漁協として成り立っているようなもんだ。今のところ。良いウニをブランド物で出す」
漁師歴50年以上の前森さんですが、ここ数年の磯の変化に気をもみます。
「今の時期にしたらいいんだけど、Aの下だから、B、B…。こんなん真っ白だから。ここはウニに食われるものだから生えれないの、海藻が」
前森さんが心配するのは大切なウニが引き起こす弊害です。岩手県沿岸ではここ数年、春先の生え始めたばかりの昆布をウニが食べ尽くしてしまう現象が起きています。一般的に「磯焼け」と呼ばれる現象です。2月から3月の海水温が高いことで、通常であればこの時期ほとんどエサを食べないウニが活発になることなどが原因として挙げられていますが、明確な理由は分かっていません。しかも、増えすぎた海域のウニはエサ不足で痩せ細り、商品価値はありません。
磯の異変は県内屈指のウニの産地、洋野町でも例外ではなく、前森さんは新たな取り組みが必要と考えています。
「ある程度育てていかなければ。課題は、エサ」

ウニ養殖の実証実験
洋野町で水産加工会社を営む下ウ坪之典さんです。下ウ坪さんは、ウニの生態を研究する北海道大学の浦和寛准教授や種市漁協と共同で、去年からウニの養殖に向けた実証実験を行っています。ウニは環境の変化に弱く、養殖自体が難しいとされています。この日は試験養殖をしているウニの実入りの調査が行われました。
「水揚げして歩留り、実入りの調査。事業化できるか否かというところの判断をしっかり見極めたいと思っています」
前森さんが操る船に乗って向かった先は、漁港の中です。浮きに籠のようなものが吊るされています。海中を覗いてみましょう。水深1.5メートルほどの海中に1辺1メートルほどの籠がありました。中には約100個のウニ。籠の底に見える四角い塊は、ウニの養殖実験のために浦准教授らが開発したエサです。昆布を主原料にしていて週2回、与えています。中に入っているのは、ウニが増えすぎた海域で採った痩せた実のないウニでした。2カ月余りにわたってエサを与えたことで、実入りがどう変化したかを調べます。
(下ウ坪さん)
「こんな感じの。(元々)実入りの悪いウニ、いま持っていただければ分かるんですが非常に重いんですよ。実がパンパン入っていますから」
ずっしりとした重みに期待がふくらみます。

養殖でピンチをチャンスに
下ウ坪さんの会社の加工場です。
(下ウ坪さん)
「1月の末の一番実の入っていない時に養殖をスタートした個体になります」
1個ずつ、ウニの大きさや実の重量を測ります。
(前森さん)
「当初の採った時よりはずっと良い。ずっと大きくなってる」
前森さんは、今年に入って磯の状態が改善していると感じています。
「今年はだいぶ良いです。去年はそれこそツルツル滑らなくて歩きやすかった。今年は滑って歩きにくいそれだけ違う。やっぱり歩けないくらいでなかったらウニは喜ばない」
増えすぎたウニを籠で養殖することは、昆布とウニのバランスを正常に保ち、出荷できなかった痩せたウニの商品化も期待できます。検査計測終了後、関係者で試食して今後の出荷の可能性を探ります。
「美味しい。これは美味しいです」「甘い」
研究を進める浦准教授は、今回の実入りの計測と試食に手ごたえを感じています。
「順調にいったと思います。歩留りも上がっているとこを見ると試験としては成功している方だと思います」
生産者としての誇りが、ベテラン漁師・前森さんの背中も押します。
「種市のウニは『これだったら(自信がある)』というのを出したくて頑張っているんだけど」
漁師、加工業者、研究者、強力なタッグが、崩れかけた磯のバランスを回復させようとしています。そして何より目指すのは生業の再生です。
(下ウ坪さん)
「マーケットに出て食べていただくお客様にしっかり評価をいただいて、確実にビジネス・商売にこの地域で根付いていけば、また新しい地域の魅力の一つになるのではないかと感じています」
ピンチをチャンスに変える洋野町のウニ養殖、年内にも試験出荷を目指し、更なる実験が続けられます。
※ウ=草冠の下に「ウ」と「丁」