「安心か、賑わいか」 市庁舎再建で割れる意見/陸前高田市
<ニュースエコー 2016年12月07日>
津波で被災した岩手県陸前高田市。市役所は仮設の庁舎で業務を続けていますが、市ではこのほど新庁舎の再建について4つの案を示しました。2017年3月に再建場所を決定する方針ですが、「重視するポイント」の違いから意見が分かれています。
(戸羽太・陸前高田市長)「メリット・デメリットあるいはその場所で建設をする場合のスケジュール等あくまでも概算的なものでありますけどもお示しをさせていただいて皆様方にご議論いただきたい」
11月21日、陸前高田市議会の全員協議会で市は東日本大震災で被災した庁舎の再建について4つの案を示しました。陸前高田市は震災の年の5月から、高田町鳴石の高台に建設した仮設庁舎で業務を行っています。示された案は、(1)仮設庁舎がある場所に建物を撤去して新築。(2)高田町の高台を通る農免道の山側に新たな土地を取得して新築。(3)移転する予定の高田小学校の校舎を改修・増築。(4)高田小の校舎を解体して新築。この4つです。海から1.5キロほど内陸に位置する高田小学校は津波が校舎の1階まで押し寄せていて、2013年の住民アンケートでは高台である現在の仮庁舎の場所を望む声が41パーセントで最多でした。仮庁舎の周辺には、すでに消防防災センターや高田幹部交番、コミュニティセンターなど、行政の施設も集まっています。

「浸水域に庁舎を作ってはいけない。それが震災を生きのびた人間の使命」
(釘子明さん)「ここ、海から約2キロちょっと離れているんですけど、高田松原でだいたい14.5メートルから15メートルの津波がきて、2キロ以上離れてここで18メートル以上の津波がきています。どんどんどんどん高くなります。」
「震災語り部」の釘子明さん。安全面から、市役所は仮庁舎のある今の場所がいいと考えています。震災の経験を伝えることで多くの人に防災意識を持ってもらいたいとこの5年間活動を続けてきました。
「もし12.5メートルの防潮堤を(津波が)越えた場合はそのまままっすぐこちらにスピードを上げて津波が来ます。それで以前と違ってよけい盛り土された関係でもう少し高い津波が来ると考えられるんで、そういったことを考えるとやはりここに市役所庁舎を作るというのは非常にわたしは心配です」
市役所が津波に襲われるなどして職員111人が犠牲となった陸前高田市。あの日を忘れてはいけないと釘子さんはいいます。
(釘子さん)「やはり市役所庁舎は絶対に浸水地域には作ってはいけない、それがわたしたち東日本大震災を生きのびた人間たちの使命じゃないかなとわたしは思ってます。」

「市役所は再生する中心市街地の賑わいづくりに欠かせない」
(伊東孝さん)「着々と進んでいるなという感じはしますね。」
中心市街地の近くに新庁舎を、と訴えるのは陸前高田商工会の伊東孝会長です。8月に行われた20店舗からなる複合商業施設の安全祈願祭。文具店を営む伊東さんは地元の商業者たちとかさ上げが進む中心市街地にショッピングセンターを整備中で、来年4月のオープンを目指しています。先月10日、陸前高田商工会は市と市議会に新たな中心市街地に近い場所に市庁舎を整備してほしいと要望しました。
(伊東さん)「ある程度近くにまとまってコンパクトになっていればやはり今後の生活する上においてもみなさんが利便性とかそういった部分ではやはりまとまってあった方がいいのかなとそれがひいてはまちの活性化だったりにぎわいだったり」
市役所は再生する中心市街地のにぎわいづくりに欠かせないと、伊東さんたち商業者は考えています。
(伊東さん)「みなさんがまちに買い物に来たり、買い物だけじゃなくてまちに集まってくる、そこに行くのが楽しくなるようなそんなまちにしていきたいなとはみんなと話しをしています。」

割れる意見、市の選択を市民は注視
開会中の市議会で市庁舎の再建をめぐり、議員の1人から厳しい質問が飛びました。
(議員)「今回の東日本大震災クラスの津波には一定の安全性が図られるという答弁ございましたが、そのことだと思うんですよ。それを当局の方々がどのようにとらえられているか、市民がどのように考えているかっていうのがギャップがあるんではないかというふうに思っているのがまず一点であります」市は議会との議論や市民との対話を経て、市庁舎の再建場所と方法を来年3月に決める方針です。防災かにぎわいか。市の選択を市民は注視しています。