<ニュースエコー 2020年1月8日>
水揚げ減少続く三陸
奮闘する「イカ王子」/宮古市

震災からハードの復興が概ね整った岩手の水産業を水揚げの減少が襲っています。この不振を様々な工夫で乗り越え、街に活気を呼び込もうと奮闘する宮古市の水産加工会社の経営者を取材しました。
先月20日、宮古市魚市場。この日の水揚げは91トンと振るわず中でもこの時期の主力、秋サケは記録的な不漁が続いていました。それに加えて…。
(鈴木良太さん)
「スルメイカがほとんどないですね。これしかないですね。この時期はタンクで何トンも水揚げがあるんですけどね。これも2,3年前からこの定置網でスルメイカが獲れなくなりましたね」
秋サケと並んでこの時期市場を賑わすはずのスルメイカも、ほとんど水揚げがありませんでした。宮古市内で主にイカの加工を行う水産加工会社共和水産の専務・鈴木良太さん(38)です。鈴木さんは、スルメイカの不漁に頭を悩ませています。
宮古市魚市場のスルメイカの水揚げの推移です。右肩下がり。減少傾向が続いています。
共和水産は従業員およそ50人、市内でも大きな水産加工会社です。宮城県の飲食店で働いていた鈴木さんは、2005年に家業である共和水産に入り震災の年の5月、専務に就任しました。それは東日本大震災の津波で大槌町の冷凍庫に保存していた原料や商品、1億3千万円分が流された直後のことでした。
(鈴木さん)
「(よし復活してやるってすぐ思えましたか?)いや、思えないです。でも借金があるのでやめれないなと思って、それだけでしたね。(そういうことですか)」

「イカ王子」として地元の水産物を発信
マイナスからのスタートとなった会社を盛り立てようと鈴木さんが始めたのが自らを「イカ王子」と名乗りイベントやインターネットで宮古の水産を発信する事業でした。
(鈴木さん)「自分を表現するにあたって、水産がかっこいいとか、これからもっとくる産業だぞって若い子に見せたかったので。どこかで、イベントで被るときが私のスイッチですね」
イカ王子としてのパフォーマンスが目立つ鈴木さんですが、その力が発揮されるのは商品開発の分野です。
(鈴木さん)
「(これは何ですか?)イカの一夜干しのカット済み。面白いでしょ。普通イカの一夜干しって姿の状態じゃないですか。そうなると値段が高くなるんですよね。だってイカが高騰してるんだもん」
原料高騰が直撃したイカの一夜干しをカットし、袋詰めにして内容量を抑えることで価格を維持。加えて、焼いた際丸まることもなく好きな量だけ焼けるという便利さがかえって人気となりました。
こちらは食品宅配業者に卸している主力商品のイカソーメン。3年前まではトレイ入り50グラムのものが主流でしたがイカの高騰を受けてカップ入り25グラムのものに変えました。すると…。
(鈴木さん)
「朝食で食べていらっしゃるお客様多いんですよ。夜食べるモノだったんですよね。イカ刺って。お刺身と言うとマグロとかサーモンとかエビとかあるんですけど、なかなかそういう魚種には勝てなかったんですけど。これがスゴく伸びています。今もう弊社の一番の売れ筋商品ですね」
原料の高騰を乗り越え、新たな需要の掘り起しに成功。こうした工夫が実り震災前3億円台だった売り上げは今年度、9億円に達する見込みです。
鈴木さんが常に大切にしているのは消費者の声です。2016年には他の水産加工業者らと手を組み日曜日限定で営業する海産物の直売所をオープン。
(鈴木さん)
「エンドユーザー、最終食べてる人の声を聞くのがすごく良くて特に生産者であれこそそこは聞くべきだと思います。そうすると見えてくるんですよ。何グラムの方がいいんだとか、価格は何円だと買いやすいんだとか」

イカに加えてタラも…被災地の水産業を盛り立てるための挑戦が続く
2年前からは、比較的漁獲が安定していて宮古が本州一の水揚げを誇るマダラを使ったタラのフライの加工に乗り出しました。
(記者)
「ふわふわサクサク。これは美味い。厚みはあるんですが、すごくふわふわしていて、噛めば噛むほどタラの淡白な旨味が広がります」
イカ王子の揚げるタラフライは評判を呼び、イベントでも引っ張りだこ。会社の売り上げに占める割合はまだ1割未満ですが手ごたえを感じています。
(鈴木さん)
「本来あるべき姿ってこのマダラを産業として根付かせる必要があると思ってて。魚がない中、こういった資源があるんですから、うまく利用して地域の皆さんで美味しく食べたいですよね」
1月下旬に開催される「真鱈まつり」の実行委員会会長も務め、水産のまち・宮古をPRしようと張り切っています。
今月4日、宮古市魚市場に今年最初の水揚げがありました。
(鈴木さん)
「そうですね、意外に少ないですね。もっとあるかなと思ってたんですけどね。本業のスルメイカも全然なかったんでちょっとショックですね」
それでも鈴木さんには獲れないスルメイカを嘆く暇も、そのつもりもありません。
(鈴木さん)
「時代は実はすごく変わっていて、めまぐるしく変わってて、水産業を取り巻く状況も変わっている状況の中で自分とか自分の会社がいかにまた変われるか、どういったチャレンジをしていけるかがすごく大事な一年だなと私は思っています」
まもなく震災から8年10か月。底が見えない水揚げの不振というピンチの中からチャンスを見出し被災地の生業の柱・水産業でどのように街を盛り上げていくのかイカ王子の挑戦は今年も続きます。
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